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  •  
  • 2015/01/11(日) 23:11:47.55
「春」

あれはもう白鳥ではない
風に絡まってそう聞こえてきた
ぼくは 自分の行く宛もつかめずに
明けがたの田園を巣立ってゆく
桜色のあれを見ていた
ぼくたちの すみかだった
あどけない空隙がひび割れていく中
さよならを恐れてはいけない
手を繋いでいることだけが互いを繋ぎとめておく
この世のすべてではないのだから
ぼくは自分にそう言い聞かす
だけど それにしたって
あれはもう白鳥ではない
そう だれでもない
だれよりもぼくがあれを讃えなければいけないのに
ぼくといったらじゃれつく心臓を掻きむしっては
こぼれそうな涙を 必死になってこらえていた
だから だからほんとうによかった
ぼくの知っている 泣き虫だったあれが
ぼくの知らない間に桜色になっていたあれが
こっちを振り返ることなく巣立っていって
ぼくは ほんとうによかったのだ

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