新浦安について語ろうPart19[地震] [machi](★0)
-
- 158
- 2011/03/17(木) 23:20:57
-
海と浦安
大三角に白羽の矢。いまディズニーランドやディズニー・シーやホテル群のある舞浜は、かつては大三角というヨシが自生している、湿地帯だった。この湿地は町有地になっていて、ヨシ切り料を役場に納めれば、誰でも自由にヨシを切り出すことができた。浦安の特産品である海苔を天日干しするのにヨシズは欠かせなかったから、大三角は浦安にとって大切な土地だったのである。
貧乏県の千葉県は鉄鋼団地に入居予定の会社に、海面のまま分譲を行った。県との契約が完了した翌月の六月二十八日、東海汽船の「あけぼの丸」をチャーターした見学会が開催された。そこは海面が広がっているだけで県担当職員の「ここです」という説明にも実感がわかなかった。
埋め立てはOLCが元請となり、三井不動産、朝日土地興業、京成電鉄が下請になって県から請け負うことも暗黙の了解だった。そして埋め立て代金は、それぞれの企業が担当した埋め立て面積に応じる土地の現物支給に決まった。その支給面積は百十五万坪、価格は坪当たり一万五千円(総額百七十二億円相当)である。この、分譲地購入希望者に代金を前納させて漁業補償費に充て、請負企業には、工事代金に見合う分の埋め立て地を分譲する方式が「千葉方式」と呼ばれるようになり、全国にまねられていった。
昭和三十八年十一月三日工事が始まった。沖のしゅんせつ船からパイプラインで運ばれてきた土砂水が、板囲いされた埋め立て海面に勢いよく噴出した。ところが、それから十二日後の十一月十五日の毎日新聞は、浦安の埋め立てに利権疑惑があることを報じた。
昭和三十八年十一月十四日、参議院決算委員会で公明党の黒柳明委員は「県と業者がグルになって建設省の許可条件を無視した土地造成を進め、許可を受けていない土地まで勝手に売買契約を結んでいる」と疑惑を追及した。黒柳氏は次の点を具体的に問いただした。 一点目は、「千葉方式」では土地が不当に安く評価されるうえ、土地の売買契約ではないので国税も取れず、国に損害を与える。二点目は、まだ建設省から埋め立ての認可が下りていないのに、沿岸の町有地(富岡地区堤防外のヨシ切り場)を埋め立てる代わりに浦安町に与えられる約八万坪が三井不動産に坪当たり一万八千円で譲渡するという覚書が三井不動産と浦安町との間で取り交わされている。三点目は、埋め立て後、漁業補償分として漁民に与えられる土地が坪二万円から三万円で売買されている。
昭和五十年ごろから約十年間の浦安は、西部劇に出てくる砂漠の金の鉱脈が発見された町に似ている。一期、二期埋め立て工事が竣工した昭和五十年、四百二十九万三千坪の砂漠が出現し、面積は一挙に三倍になった。十年間でその埋め立て地に集合住宅八千四百五十戸、戸建住宅四千七百三十戸建設の計画が発表される。そのほか、鉄鋼団地に二百五十八社が進出を決め、大規模な総合レジャーランドが建設されることが決まっていたのである。
道路やガス水道などの社会的資本の整備を含めると、十年間の総投資額は軽く一兆円を超える。このころの浦安は“利権の町”として頻繁にマスコミに登場するようになっていった。これだけのお金が動くのだから致し方ない面もある。
かつての浦安は水辺にはアシが茂り、そこから続く遠浅の海には、貝類をはじめとする多くの水中生物が棲み、魚たちの産卵の場でもあった。その動植物の棲家は、人間の都合によって埋め立てられていった。そして、人間だけの棲むのに適したかたちに造り代えられていった。海に続く湿地帯には、江戸時代は鶴や白鳥も飛来して空を舞う“舞浜”でもあった。その鳥たちも埋め立てによって追い立てられていったのである。
漁師町であった人々の暮らしも自然に融けこんでいた。境川の水で顔を洗い、米をとぎ、遠浅の海はクワで耕し、そこにアサリやハマグリの幼貝を蒔いた。秋になれば、浅い海一面に海苔網を張り、貝が大きくなるのを、海苔が海を黒く染めるのを待った。そこに江戸川の肥沃な清流が流れ込み、貝や海苔を育てた。暮らしの中には、豊饒の海への感謝と祈りがあった。
時代がかわって、春になると三番瀬には、多くの人間が貝を掘りに繰り出す。中にはバケツ一杯の貝を持ち帰る者もいる。
また、秋になると、境川の岸辺には家族連れでパラソルを開き、ハゼつりに熱中する光景が見られる。自分たちの楽しみだけのために、いとも簡単に貝や魚の命を奪ってしまう。
漁は生き物の命を自分たちのからだに宿す業であるから、漁師たちは水神に祈りをささげた。
投網漁師だった内田仁助翁が境川にアシを蘇らせようとし続けたのは、彼らの棲家を押しつぶし傲慢になっていった自分たち人間への警鐘があったように思える。
http://www.ichiyomi.co.jp/umi/index1.html
このページを共有する
おすすめワード