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  • 2015/10/03(土) 23:56:03.25
【WHITE ALBUM2】冬馬かずさスレ 砂糖57杯目

孤高。そして、孤独。

冬馬 かずさ (とうま かずさ)

Personal Data
(introductory chapter)
  峰城大付属3年E組。
  誕生日、5月28日。
  窓際の席で常に居眠りしている。遅刻・サボリの常習犯。
  雪菜と対極にいる時代錯誤の不良娘。
  裕福な家庭だが、親がほぼ不在。
  長く艶やかな黒髪、モデル顔負けのスタイル、切れ長の瞳。
  外見のイメージに反して、甘い物(プリン・ポートワインなど)好き。
  どちらかと言えば緒方理奈派。
(closing chapter)
  多分ピアニスト。きっとウィーン在住。その他の詳細不明。
  母であり、欧州を中心に世界中で活動するピアニスト冬馬曜子は、
  たびたび日本のメディアにもその活躍ぶりが紹介されているが、
  その不良娘にして実績のない若手ピアニストのことは、
  今現在でも日本ではまったく知られていない。
  彼女がふたたび日本の地を踏むことは、果たしてあり得るのか…

【WHITE ALBUM2】冬馬かずさスレ 砂糖56杯目 [転載禁止](c)bbspink.com
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1435362427/


※次スレは>>950頃に宣言してからスレ立てをして頂けますようお願い致します。



シナリオ担当・丸戸史明による冬馬かずさ評

「捨て犬に懐かれると、とんでもないことになるという見本。というわけであまりにも忠犬。
吠えても噛みついてもすねても常に尻尾は振ったまま。
さらにやっかいなのは、元捨て犬のくせにじつは血統書付きで毛並みが最高なこと。もふもふしてあげるとわかりにくく超喜びます。
でも放っておくと砂糖しか食べないので、厳しい管理が必要です。
というわけで彼女を幸せにできるのは、人生を犬に捧げたトップブリーダーだけです。みなさん頑張ってください」

ソース:【電撃PlayStation】『WHITE ALBUM2』シナリオ担当の丸戸史明氏自らヒロイン5人を紹介!
http://dengekionline.com/elem/000/000/573/573553/?%3f 
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f) 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)
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  • 2015/10/20(火) 21:51:06.53
 かずさは血色を失いつつも舞台を凝視し続ける。板倉が時折小声で心配そうに話しかけたが、全く反応しない。

 ピアノを捨てた榛名には、和希が側に残り、捨てなかった雪音には、歌だけが残される。

 そうして、第2幕が終わったが、かずさは手足が震えてもはや立ち上がることすら出来きなかった。ただ、張り付けられたように幕の閉じられた舞台を見つめ続けるのみであった。

 そして、最終幕。
 
 そんな嘘に塗り固められた日々に疲れた和希がふと、榛名のピアノを聞きたいと漏らしたところから話は終盤に向かう。
 ブランクとスランプに喘ぎ、自暴自棄になって和希まで拒絶して引きこもってしまった榛名。その危機を救う為に現れたのは他でもない、雪音であった。

「…何のために来た…? わたしを罵りに来たのか? それとも…憐れみに来てくれたとでも言うのか?」
 雪音を拒絶する榛名。しかし、雪音は引き下がらない。

「どうしてそんなこと…そんなこと、どうして言うの…全部あなたが臆病なのが悪いんじゃない!」
 ぱしっ。平手の音が響く。
「勝手な…ことを言うな…あいつの…想いも夢も、尊敬も、焦りも、嫉妬も、彼女の座もずっと独り占めしておいて…今さら被害者ですよってしゃしゃり出てくるなっ」
 ぱしんっ。榛名も負けじと返す。

 平手打ちとともにお互いの本音をぶつけ合い、いつしか和解する二人。
 
「おまじないだよ」
 別れ際に雪音が榛名に渡したのは、あのコンテストの控え室で和希から受け取り、以来片時も離すことがなかった、和希との絆のギターピックだった。

「おまじないだ」
 そして、和希からは、キスを

 舞台にあのコンテストの日の「届かない恋」が流れ、榛名はピアノを取り戻す。しかし、それは皮肉にもあの日の3人の思い出と和希と雪音の仲まで取り戻してしまった。

 二人の為に身を引く決意を固める榛名。榛名がピアノを取り戻したことを知った母親からの留学の薦めを承け、誰にも知らせずウィーンへ去ろうとする。
 飛行機が起つ直前でその事を知り、空港へと向かう和希と雪音。
 雪による遅延で奇跡的に3人は出会うことができた。

 再会を誓い、和希と雪音は榛名を見送る。しかし、榛名はもう二人の元に戻らないと心に決めていた。

「あれ?」
「何か…ポケットに…」
「これ…和希のギターピック…」

 その意味に愕然として飛行機に向かい榛名の名を叫ぶ雪音。その雪音に寄り添う和希。二人の姿を照らしていたスポットライトが徐々に絞られ、舞台は暗転し、最終幕は閉じられた。
 スポットライトが最後に照らしたのは二人の繋がれた手、それは二人の未来を暗示していた。

 拍手に包まれる劇場にかずさの慟哭が響き渡った。
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  • 2015/10/20(火) 22:17:00.51
>>449
アニメやゲームのイベントってそういう話もよく聞くけど、これが最後かもしれないと思うとね…
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  • 2015/10/20(火) 22:29:44.93
>>449
コンサートで一体どんないやな目あったっていうんだ
周り集団に塞がれたとか、サイリウムをバルログみたいに持った人にぶつけられたとかしか考えられない
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  • 2015/10/20(火) 22:30:57.53
前にここや本スレで話題になってたのだと、オタ芸とかやりまくっててうざいとかだっけな
個人的にはまぁそこまで気にはしないけど
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  • 2015/10/20(火) 22:59:35.99
かずさの目覚まし時計か…
春希さんの気分が味わえるな
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  • 2015/10/20(火) 23:06:03.89
>>459
なるほどね
数は少ないのかもしれないけど近くでやられたら確かに嫌だな
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  • 2015/10/20(火) 23:38:59.86
「脳のここの部分に腫瘍がありますね。最近、頭痛を感じた事は?」

「いいえ…」

 春希はそう答えた。しかし、実のところ慣れない異国での激務で身体に不調を感じることは頻繁であったので、最後に頭痛に襲われたのはいつかなど覚えてはいなかった。

「浸潤が激しく、悪性である疑いが高いです。摘出手術が困難な箇所ですが…化学療法や放射線治療もあります。希望を持って治療を続けて下さい…」

「はい…」

 誰にも相談できない。特にかずさには…

◆◆ 

「ただいま」

「遅いぞ、春希」
 玄関のドアが開き、片付けのできないかずさの待っていた家からはカビと生乾きの洗濯物の匂いがした。

「誰の尻拭いで遅くなったと思っているんだ?」
「あたしの尻を追っかけるしつこい記者を追い払うのも春希の仕事だろう?」

 気怠い身体を引きずって帰って来ても玄関で待つのは憎まれ口。そんな生活を今まで続けてきた。

 医者から言われた事が頭の中で泥色の渦をまく。何も考えたくない。休みたい。
「今日は疲れたよ。明日も早いしもう…」

 しかし、そんなささやかな望みさえ、我が侭放題に育てられた愚妻は許してくれない。
「3日も待ったんだぞ」

 かずさがナメクジのように腕をからめてくる。胃の底に生ぬるい鉛を流し込まれたような気分だ。

 眠い。この腕を払って眠ることができればどんなにか楽だろう。

 ベッドを一つにするんじゃなかった…
 逃げ道など最初からない。首筋に湿った唇が押しあてられる。
 鈍い悪寒が背筋をこわばらせた。
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  • 2015/10/20(火) 23:42:38.44
 流しには腐臭をまとわりつかせた食器が積み上がっていた。
 明日になればさらに耐えがたい臭いを放つだろう。

 玄関でしっかりと靴を拭わずに部屋に入ってくれるものだから部屋が砂ぼこりくさくなる。
 脱ぎ捨てられた服や空のワインボトルが床に散らばっているのなんてもうご愛嬌だ。

 子供がいなくて良かったと心底思った。

 吐き気をこらえつつ洗ってあるものと思しきグラスを一つ取り水でよくすすいだ上で、冷蔵庫から炭酸水のボトルを取り、注いで飲む。
 まずい
 だが、苦味すら感じるほどの硬度の水道水より遥かにマシだった。

 紅茶でも沸かそうかと電気ポットを見て舌打ちする。
 ものぐさなことに、電気ポットに直接紅茶の葉をぶち込んで、飲み終わってそのまま放置していたのだろう。
 電気ポットの中には2日前の紅茶の葉が黒っぽいカビと共に鎮座していた。

「何をしてるんだ? 早くしろよ」
 急かすかずさを無視してゴミバケツにカビだらけの紅茶の葉をぶち込んだ。

 居間のテーブルの上には固まった極彩色の脂を浮かべたカップラーメンの容器が整列している。
 もう嗅覚は麻痺していたが、まとわりつく不快感はどうにもならない。

 居間から逃げるように寝室に入り、こぼれたワインのシミのついたベッドに手をついた。
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  • 2015/10/20(火) 23:44:21.56
 泥のような眠りから醒め、カビ臭いベッドから身を起こす。
 かずさはまだ豚のように惰眠を貪っているが放置。

 居間に戻るとテーブルの上のカップラーメンは容器は予想以上にすえた悪臭を漂わせていた。
 こみ上げてくる胃液を押さえて流しにスープだったモノを捨てる。
 固まった脂の塊が流しに詰め込まれた食器の一部にこびりついた。

 温水器のスイッチを入れたところで目まいに襲われた。
 脳の中を這いずり回り、食い散らかす線虫のような存在を感じた。手足に力が入らない。

 よろよろとベッドに戻るとすぐに意識を失った。

 ◆◆

「春希。とっとと起きて食器を洗ってくれよ」
 ろくでもない要求で目が覚めた。

「…たまには自分で洗ってくれよ」
 ため息と共に

 しかし、そんな弱々しい抗議は倍返しの憂き目にあった。
「あたしの両手はピアノを弾くためにあるんだ。そもそも、台所仕事するなっていつも言っているのは春希じゃないか」

 言ってもムダか。
 たとえどういう風の吹き回しかでかずさが食器洗いをしてくれる気になったとしても、洗い上げられる食器より割られる食器の方が多いに違いない。

 目まいのする身体を起こして寝室を出ると、ワインを飲みふけるかずさがいた。

「朝っぱらから飲むなよ」

「ティーポットも洗ってないというのに、あたしに不味い水でも飲めというのか?」

「酒まで飲まなくてもいいだろ」

「仕事でもあるというのか?」

「おあいにく様。でも、練習はしなきゃダメだろ?」

「これくらい酒が入っているくらいがちょうどいい」

「そんなんだから酔っ払って演奏しているんじゃないかとか言われるんだぞ」

「バーのピアノなんて素面で弾けるか」

「はぁ…」
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  • 2015/10/21(水) 12:49:59.40
チケットが必要って今知った
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  • 2015/10/21(水) 18:56:57.04
土日の二日間やるようだが、二日間のセット売りみたいのないんだな
別々にかわなきゃダメなのか
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  • 2015/10/21(水) 19:15:30.94
俺の嫁
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  • 2015/10/21(水) 19:31:21.41
会場で売るっていうボンゴレ雑炊は興味あるな
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  • 2015/10/21(水) 22:20:07.27
>>467
春希さん乙
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  • 2015/10/21(水) 22:36:59.53
春希さんならかずさ目覚まし時計を買い占めるだろうな
自分以外がかずさの目覚ましボイス聴くなんて許すまいw
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  • 2015/10/21(水) 23:14:58.05
>>470
そこはかずさのマネージャーとしての売り込みたい気持ちと夫として独占したい気持ちの二律背反が起こるところで
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  • 2015/10/21(水) 23:46:42.97
春希さんは毎朝かずさの目覚ましボイスやおはようのキスまで貰ってるんだから
目覚まし時計くらい譲ってくれてもいいじゃないですか・・・
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  • 2015/10/21(水) 23:56:59.17
5/10(月)冬馬宅地下練習スタジオにて
 フランツ・リスト作曲、詩的で宗教的な調べより第10曲…Cantique d'amour『愛の賛歌』
 
 かずさはそれを奏でたつもりだった。しかし…
 奏で終わった途端に押しつぶされそうな罪悪感が彼女を襲った。罪悪感に重みがあったなら彼女の身体は鍵盤に叩きつけられて二度と起き上がることはなかっただろう。
 
 ぱん、ぱん、ぱん…
 練習スタジオ入口から曜子が拍手をしつつ入ってくる。その表情は笑顔に満ちていた。
「素晴らしい出来じゃない、かずさ。こんな演奏、わたしには逆立ちしてもできっこないわよ」
 母親の言葉には痛烈な皮肉が混じっていた。
 
「わかっているよ、母さん。今の演奏は…」
 弱々しい娘の口応えを遮るように曜子は追撃を続ける。
「ええ、出来は素晴らしいわよ。
 賛否両論あるだろうけど、今の演奏は全盛期のわたしでも敵いっこない。
 たぶん、ウィーンで値段をつけさせたら倍の値段がつくわよ。
 フランツ・リスト作曲ザイン・ヴィゲンシュタイン侯爵夫人に献呈された詩的で宗教的な調べより第10曲…」
「もうやめてくれ。母さん…」
 娘の懇願に耳を傾けることなく、母親はとどめの言葉を撃ちこむ。
「『愛の《怨嗟》』ってね」
「っ…!」

 やはり、母親には全部見抜かれていた。
「もぉ、すっごいわたし好み。
 オンナの秘めておきたい部分がもぉ『これでもかっ』ってぐらい伝わってきて、同じオンナに生まれてきたこと懺悔したくなるぐらい。
 フランツに聞かせたら墓から飛び出してきて、あなたの首を絞めにかかるか、頭を垂れるかのどちらかね。
 まぁ、カレも身に覚えが二つ三つあるコだから後者の方が若干確率高いかな」

 200年前の偉大な先人を元愛人の一人のように看做す発言の方こそ祟られても文句言えないほど不敬極まりない。しかし、かずさは罰を受ける罪人のようにうなだれて口をつぐむ。
 そう、被告人かずさが全く弁明できないほど、今の演奏はどす黒い感情に満ちていた。
 春希を奪った雪菜への嫉妬、自分を捨てて雪菜をとった春希への妄執
 そして…春希を振り向かせる事が出来なかった自分への自己嫌悪

「熱心なのは結構だけど、あまり入れ込みすぎるんじゃないわよ」
 曜子はそう言って練習スタジオから出て行った。

 残されたかずさの口から嘆息とともに男の名が漏れる。
 春希ぃ…
 5年間付き合ってきた慕情を振り切ろうと決意したのが2ヶ月前。
 しかし、心身の隅々まで根を張った感情から容易く免れることなどできるはずもなかった。
 
 冬の終わりにはかずさ、春希、雪菜の3人が心重ねた一瞬があったが、春が来て夏が近づくにつれ、かずさ心の隙間から抑えきれない感情が滲み出てきた。
 忘れるためにピアノを弾けば逆に、自分は今まで春希の事ばかり考えてピアノを弾いてきたのだと思い知らされた。
 かずさのピアノはあたかも鏡のように容赦なく彼女の内面を映し出していた。彼女自身でどうにもならないほどに。

「やっぱり私、母親失格かも」
 曜子は、閉じた練習スタジオのドアの向こうでため息交じりにつぶやいた。
「娘がつらい経験を重ねるたびにピアニストとしての艶を増していくのを見て…喜ばずにはいられないなんて」
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  • 2015/10/21(水) 23:58:07.38
『冬馬かずさ、急死

 2月14日、ピアニストの冬馬かずさ(28)が現在活動拠点としているウィーンの病院で亡くなった。
 1月末に行われた野外コンサート期間中に演奏を行ったことで体調を崩し、その後の活動の強行で肺炎を引き起こし、入院時には既に手術や投薬治療も間に合わない程弱っていたという。
 彼女の所属する冬馬曜子オフィスでは、故人の葬儀をウィーンで行った後、遺骨を日本に送り、社長である故人の母冬馬曜子が引き取る流れになっているという。
 冬馬かずさがウィーンでの活動を始めたのは……』

「申し訳ありません!」

 北原春希がソファーにも腰掛けず、床に這いつくばるようにして深々と土下座を繰り返した。そんな春希を工藤美代子は向かいのソファーの後ろでただオロオロと見詰めているだけだった。

「あなたの責任じゃないわよ……春希君」

 そしてその向かいのソファーに座っていた女性、冬馬曜子——今の春希の義母——は、思い掛けない形での五年ぶりの再会の場で、それこそ母親の眼差しと声で春希を優しく包み込んだ。

「でも、でも俺、あいつを、かずさを……」
「だからそれは、あなたの責任じゃない。あの子の自己責任よ」
「それだって、全部俺が背負うものだったのに。あいつの全てを守るはずだったのに」
「……そのことで、あの子はあなたに恨み言をぶつけた?」

 ハッとしたかのように春希は顔を上げた。曜子の顔は娘を失った母親とは思えない程に穏やかだった。

『かずさ、しっかりしろ!』
『春希……情けない顔、するな』
『でもお前、このままじゃあ』
『何を勘違いしてるかは……知らないが、あたしは……幸せだったよ』
『過去形かよ!俺たちまだこれからじゃないのかよ!?』
『春希……ありがとうな』
『止めろ!そんな言葉、お前から聞きたくない!』
『……』
『……かずさ?』
『……あ、あ……』
『かずさぁ!』

「あなたが何もかも捨てて自分の側にいてくれたんだもの。あの子は幸せだったと思うわ、きっと」
「でも、俺はかずさを守れなかった。あいつを今以上に幸せにできなかった。
 あいつが本当に幸せになる道を、永遠に閉ざしてしまった……」

 向かい合ったソファーの間に置かれたテーブルの上、かずさの死が掲載された新聞が開かれている。既に日本でもこのことは公にされているのかと、春希の心は更なる重しに圧し掛かられた。

「でもありがとう。わたしはもうこんな身体だから、あなたがかずさの遺骨や遺品を持って来てくれて、正直感謝してる」
「……本当に、ごめんなさい」
「いいのよ。あの子だってきっと後悔はしていない。
 むしろ、あなたに辛い思いをさせてしまってごめんなさい」
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  • 2015/10/22(木) 00:07:50.54
何なんだこのスレは、何がどうしてこうなった?
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  • 2015/10/22(木) 00:10:55.93
キチガイが発狂しただけ
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  • 2015/10/22(木) 01:42:18.49
かずさ犬は人気者だから昔からたびたび荒らされる
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  • 2015/10/22(木) 02:02:45.83
>>472
おはようのキスはともかく目覚ましボイスで起こすのは春希さんの方であってかずさが先に起きてる光景を
想像するのは難しいな。何回に1回くらいの割合なんだろうな?
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  • 2015/10/22(木) 07:33:50.55
330 名無しさんだよもん sage 2015/07/29(水) 09:29:32.10 ID:tFeStDMd0
コピペ野郎から必死に逃げようと無理に話題振ってお前らかなり痛いというかわざとらしいなw
その努力は感服ものだよ…
まあそろそろここで全ての思惑を伝えよう

331 名無しさんだよもん sage 2015/07/29(水) 09:38:26.28 ID:tFeStDMd0
SSをコピペしまくったのは俺だよでもそれはいつまでたっても糞SS野郎がSS投下を止めないから
このスレじゃなくて本スレや雪菜スレも荒らせば糞SS野郎もSSの投下を止めると思ったからだ
実際のところ糞SSの投下は無くなっただろ
ほかにも愉快犯がいたみたいだけど7割くらいは俺だよ
素直にかずさファンには謝罪をしておくよ悪かった

332 名無しさんだよもん sage 2015/07/29(水) 09:47:02.26 ID:tFeStDMd0
雪菜スレを荒らしたのはあちらの住民には悪いがSS投下を止めさせる意図もあった
でも純粋に雪菜が大嫌いなのもあったから
そうまさに一石二鳥作戦だったんだよ雪菜ファンには申し訳ないが人柱だな
俺もかずさファンだし糞SS野郎がいつまでも駄文を投下してスレ妨害するのが我慢ならなかった
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  • 2015/10/22(木) 07:34:54.13
春希 「驚いたなぁ。かずさにそんな人がいたなんて」
曜子 「…あまり動揺してくれないのね」
かずさ 「こういう男だ。春希は」
春希 「いやいや。驚いていますよ。あんなに曜子さんに仕事漬けにされていた上に、俺たちと会ったときもそんな浮いた様子一つもありませんでしたから」
かずさ 「そんなの隠していたに決まってるじゃないか」
春希 「そりゃ、自分みたいなマスコミの記者に話すなんて日本全国に広めてくださいって言っているみたいなものだしな。
   でも、祝福してくれる人もたくさんいると思うぞ。俺もそうだし」
かずさ 「そういう意味じゃない。ったく」
春希「?」
曜子 「…まあ、いいわ。ともかく、かずさが選んだ事だし。私みたいな趣味の悪い女がとやかく言える話じゃないわね」
春希 「それで、相手の人ってどんな人なんですか?」
かずさ 「橋本健二さん」
春希 「え、えと。どんな人かって質問なんだけど」
かずさ 「な!? お前はアホか?
   なんで今を時めく若手ナンバーワンピアニストの健二さんを知らないんだ? 仮にも記者のはしっくれだろ? お前は!」
春希 「え、えーと。かずさに比べて特徴ない人だから…」
曜子 「おやおや。女王杯始め数々の賞を取った身長2m弱の巨漢の化け物ピアニストが『特徴ない』なんて、まぁ。
   ま、胸の大きさなら私の娘も十分化け物級だけど」
かずさ 「健二さんを化け物呼ばわりするな。あの人はああ見えてそういうのすごく気にする人なんだ」
春希 「はは。無知ですいません」
曜子 「ま、ギター君はできないと自分で決めちゃった線からは本当に努力しないコだもんね。
   ギターの腕にせよ、クラシック知識にせよ」
春希 「…返す言葉もありません」
かずさ 「ふん」
曜子 「ま、人間手の届かない才能目差した努力はしない方がいいわよ。
   幸せにできるのはその手の届く人だけ。好きなだけ崇拝してるだけでは、2、3年は良くても結局5年10年はうまくいかないものよ」
かずさ 「ふん。とっかえひっかえした経験者の言葉かい?」
曜子 「ええ。だから、橋本さんとの縁は本当に歓迎しているわ。
   あなたのような、ピアノだけのちょっといびつに育ってしまった娘を、その才能を、崇拝でもなく知識としてでもなく、同じ才能を持ち共に歩んで行ける存在として受け止めてくれる人と出会えたんだから」
かずさ 「ふふん♪」
春希 「良かったですね」
曜子 「おや? あなたの『良かった』は『フった女が幸せに収まりそうで良かった』の意味じゃなくて?」
春希 「ぐ…」
かずさ 「ちょっと! 母さん! それはやめろよ!」
曜子 「あらあら。ギター君、わかりやすい表情。ひょっとしてかずさがこの先独身だったらどうしようとか気に病んでくれてた?」
春希「……」
かずさ 「フフン。残念だったな」
春希 「い、いえ。…そ、そういえば、お二人の馴れ初めなど聞かせていただけると…」
曜子 「かずさの方からよ。もう、猛烈アタック。そうしなきゃダメって経験が生きたわね」
かずさ 「(赤面)ちょっと! 母さん!」
春希 「はは…普段のかずささんからはなんだか想像できませんね」
曜子 「冬馬家の女の性欲なめんな。男ナシで20代の盛りを乗り切れるワケないでしょ」
春希 「……」
かずさ 「…あんたの血を受け継いでこれほど後悔した日はないな」
曜子 「ま、そういうワケで。明日の記者会見までは口外禁止でね」
春希 「いえいえ。ありがとうございました」
曜子 「じゃ、またね」
かずさ 「またな、春希。…あ、そうだ。もうひとつだけ教えてやる。耳を貸せ。春希」
春希 「なんだい? かずさ」
かずさ 「(ゴニョゴニョ)」
春希 「…(がくっ)…そりゃ、向こうは身長2mで…(ぶつぶつ)」
かずさ 「じゃあな。春希」


曜子 「さっきギター君に何吹き込んだの? カレ、心へし折られたような表情してたわよ」
かずさ 「…いや、健二さんの方が大きくて固かったって」
曜子 「…えげつない子ね。さすが私の娘ね」
かずさ 「いや、自分でもえげつないと思うけど、あたしやっぱり母さんの娘だよ」
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  • 2015/10/22(木) 07:42:06.70
雪菜「ここが音楽室だね。懐かしいな。中に2人いるんだよね。じゃ、入るよ」
 ガチャ
雪菜・武也・依緒「結婚おめでとう!」
 ビクッ
春希「な、なんで雪菜たちが…」
かずさ「な、なんで…」
雪菜「なんでって…招待してくれたんじゃないの?」
春希「いや、俺は誰か来るなんて聞いてなく…」
春希「(曜子さんだな…なんて人だ…)」
武也「(こりゃ本当に何も知らされてなかったな…かわいそうに)」
かずさ「(な、何で雪菜たちが来ているんだよ! 今日は春希とあたしの為だけの式だぞ! 春希が「最初から始めよう」って言ってくれた記念の日に何で雪菜たちが来るんだよ!)」
かずさ「帰れ…」
雪菜「え?」
かずさ「帰れよ! なんで雪菜が来てるんだよ!」
春希「こ、こら! かずさ」
曜子「や、やめなさい! かずさ! …ごめんなさい、ちょっとお色直し中で気が動転してて…」
かずさ「いいから帰れ! あたしの音楽室から出ていけ!」

ガチャ
依緒「友達だと思ってたのに…酷いことしちゃったね…」
雪菜「ゴメン。曜子さんが『2人も待ってる』って言ってくれたからてっきり…」
武也「いや、俺達も気付くべきだった。曜子さんも最近いろいろ焦ってたからな。こんな形で結婚式挙げさせようとするとか」

扉の向こう「卑怯だよ! 母さん、卑怯だよ!」「落ち着いて! かずさ!」

武也「帰るか…」
雪菜「うん…」

・校外

武也「やれやれ、せっかくの日に冬馬たちには悪いことしたな」
雪菜「ゴメン! ウィーンでも春希君とは会って話できたんだけど…」
依緒「かずさがあんな拒否感残してるなんてね」
雪菜「ビデオレター見てくれたときもかずさはすごく怒ってたとは聞いたけど」
武也「あのレターも、曜子さんが2人の為に作ってくれとまで言ってくれたのにな」
依緒「曜子さんがかずさたちに隠して会わせるつもりだった可能性は考えておくべきだったね。曜子さんあんな人だし」
雪菜「かずさ、まだわたしたちのこと、あんな風に思ってたんだね…」
依緒「…雪菜。このハンカチ使って」
武也「今日は仕方ないさ。感情が和らいでまた会える日が来たらまた会ってやろう」
雪菜「うん…」

武也「(そんな日はもう来ないかも知れないが)」
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  • 2015/10/22(木) 07:46:58.19
5/10(月)冬馬宅地下練習スタジオにて
 フランツ・リスト作曲、詩的で宗教的な調べより第10曲…Cantique d'amour『愛の賛歌』
 
 かずさはそれを奏でたつもりだった。しかし…
 奏で終わった途端に押しつぶされそうな罪悪感が彼女を襲った。罪悪感に重みがあったなら彼女の身体は鍵盤に叩きつけられて二度と起き上がることはなかっただろう。
 
 ぱん、ぱん、ぱん…
 練習スタジオ入口から曜子が拍手をしつつ入ってくる。その表情は笑顔に満ちていた。
「素晴らしい出来じゃない、かずさ。こんな演奏、わたしには逆立ちしてもできっこないわよ」
 母親の言葉には痛烈な皮肉が混じっていた。
 
「わかっているよ、母さん。今の演奏は…」
 弱々しい娘の口応えを遮るように曜子は追撃を続ける。
「ええ、出来は素晴らしいわよ。
 賛否両論あるだろうけど、今の演奏は全盛期のわたしでも敵いっこない。
 たぶん、ウィーンで値段をつけさせたら倍の値段がつくわよ。
 フランツ・リスト作曲ザイン・ヴィゲンシュタイン侯爵夫人に献呈された詩的で宗教的な調べより第10曲…」
「もうやめてくれ。母さん…」
 娘の懇願に耳を傾けることなく、母親はとどめの言葉を撃ちこむ。
「『愛の《怨嗟》』ってね」
「っ…!」

 やはり、母親には全部見抜かれていた。
「もぉ、すっごいわたし好み。
 オンナの秘めておきたい部分がもぉ『これでもかっ』ってぐらい伝わってきて、同じオンナに生まれてきたこと懺悔したくなるぐらい。
 フランツに聞かせたら墓から飛び出してきて、あなたの首を絞めにかかるか、頭を垂れるかのどちらかね。
 まぁ、カレも身に覚えが二つ三つあるコだから後者の方が若干確率高いかな」

 200年前の偉大な先人を元愛人の一人のように看做す発言の方こそ祟られても文句言えないほど不敬極まりない。しかし、かずさは罰を受ける罪人のようにうなだれて口をつぐむ。
 そう、被告人かずさが全く弁明できないほど、今の演奏はどす黒い感情に満ちていた。
 春希を奪った雪菜への嫉妬、自分を捨てて雪菜をとった春希への妄執
 そして…春希を振り向かせる事が出来なかった自分への自己嫌悪

「熱心なのは結構だけど、あまり入れ込みすぎるんじゃないわよ」
 曜子はそう言って練習スタジオから出て行った。

 残されたかずさの口から嘆息とともに男の名が漏れる。
 春希ぃ…
 5年間付き合ってきた慕情を振り切ろうと決意したのが2ヶ月前。
 しかし、心身の隅々まで根を張った感情から容易く免れることなどできるはずもなかった。
 
 冬の終わりにはかずさ、春希、雪菜の3人が心重ねた一瞬があったが、春が来て夏が近づくにつれ、かずさ心の隙間から抑えきれない感情が滲み出てきた。
 忘れるためにピアノを弾けば逆に、自分は今まで春希の事ばかり考えてピアノを弾いてきたのだと思い知らされた。
 かずさのピアノはあたかも鏡のように容赦なく彼女の内面を映し出していた。彼女自身でどうにもならないほどに。

「やっぱり私、母親失格かも」
 曜子は、閉じた練習スタジオのドアの向こうでため息交じりにつぶやいた。
「娘がつらい経験を重ねるたびにピアニストとしての艶を増していくのを見て…喜ばずにはいられないなんて」
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  • 2015/10/22(木) 09:55:55.38
480kb超えたんで次スレ立てるわ
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  • 2015/10/22(木) 10:03:57.64
次スレ

【WHITE ALBUM2】冬馬かずさスレ 砂糖58杯目 [転載禁止](c)bbspink.com
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1445475514/
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  • 2015/10/22(木) 11:37:03.00
・クラクフ

春希 「そんなわけで、誰が悪い噂流してるのか解りませんが、ほとほと困り果ててます。もちろん、確かに一部事実のところはありますが、その何倍もひどい噂が流れてまして。
 まるで、誰かが自分やかずさのことを憎んで中傷に精を出しているんじゃないかと疑いたくなりますよ」


・日本

朋 「はっくしょん! はっくしょん!」
AD 「カット。いまの説明の最初からもう一度お願いします」
朋 「はーい。すいません」


・再びクラクフ

中年男 「なるほどなぁ。しかし、テレビになった件は確かにいただけないが、ポーランドでは流れてないし、まだ『ハチコ』の件の方が有名だろ」
春希 「それはそうですが、現に仕事がなかなか続かずで。もちろん、かずさがトークが全くダメなところもマイナスではあるとわかっていますが」
中年男 「確かに私も昔そういった時期はあったが…」
春希 「自分が代わりに台本でも作れたらいいんですが、あいにくそれができるほどの知識も語学力もありません」
中年男 「演奏者本人がやらないと意味はあるまい。コンサートは演奏以外も含め、演奏者と聴衆の対話の場なんだから」
春希 「難しいですね」
中年男 「他にもまあ色々あるんだが、私なんかが言っても冬馬かずさは聞くまい。ちゃんとした師匠なりつけた方がいいと思う。そういったところも指導してくれるはずだ」
春希 「かずさの師匠ですか。難しいですね。そもそも気難しく人見知りが酷くて」
中年男 「やはり言っておくか。
 曜子さんの指導を仰いだらどうだ? あの人なら何も問題ないだろう」
春希 「!? そ、そうですね。聞いてみます(まだかずさとの仲は微妙なんだけど、そこまではこの人に相談できないな)」
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  • 2015/10/22(木) 11:55:59.12
スレたて乙
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  • 2015/10/22(木) 13:53:49.43
暗いSSが多いから明るいSSも貼ろうぜ
色々なSSを見比べるのも偶には良いものだ

 結婚して一年目の二月七日。
 誕生日の一週間前のこの日になって初めて、雪菜がこんな提案をしてきた。

雪菜「ねぇ、春希くん。新曲の歌詞、できてる?」
春希「……は?」
雪菜「は、じゃないよ。もう一週間前だよ?
   わたしたちのいつものペースから考えて、そろそろ合宿に入らないといけないと思う!」
春希「や、だから」
雪菜「わたし、ちゃんとかずさには連絡してあるからね。それでもうスタジオだって予約してあるんだから。
   準備万端だよ? ふふっ、これも春希くんの影響かなぁ。
   あとは春希くんが歌詞を作って、かずさが曲を作って、練習するだけ!」
春希「いやそれ、『だけ』じゃなくて曲作りのほぼ全部……」
雪菜「さ、頑張ろう? わたしの誕生日までもう時間ないんだよ?」
春希「…………」

 ……重ねて言うが、雪菜がこんな提案をしたのはこの日が初めてである。
 そして、これは俺自身もまぁどうでもいいといえばいいのだが、もう一つだけ。
 武也も仲間に入れてやってくれ。

 ◆◆
 とはいえ、新妻のやりたいことをできる限り応援するのは夫の務めではないだろうか。
 そう脳内で言い訳して、バックパックにこれでもかとばかり食品や生活用品や、そういったものを詰める。
 そしてそんな都内に不似合いな大荷物を担いでスタジオに行くと、既に待機していたかずさとの挨拶も
 そこそこに早速歌詞作りに入った。
 テーマは家族。愛しのお姫様のご指定だった。

春希「家族。家族か……」
かずさ「なんだ、雪菜との理想の家庭像でも想像してるのか?」
春希「あー。それもあるなぁ」
かずさ「どうせイチヒメニタローがどうとか、家は一戸建てもいいけどリスクを考えると、とか。
    そんなしょうもないことばっかりなんだろ?」
春希「そ、それのどこが悪いんだよ!
   どこかの誰かみたいにそれ一本で勝負できるものがないんだから仕方ないだろう。
   ……それより一姫二太郎なんて言葉、よくお前が知ってたな」
かずさ「う、うるさいんだよ委員長は! ったく、相変わらず安定志向な奴め。
    これじゃ、出来上がる歌詞も面白みがなさそうだ」
春希「いいだろ本職じゃないんだから……。そんなこと言うくらいならお前は雪菜と遊んでろ。
   そうだな、歌のお兄さんとお姉さんごっこがいいんじゃないか?」
かずさ「誰がお兄さんだ!」
春希「先回りして怒んなよ!」

 何故だろう。スタジオに入ると精神年齢まで高校時代に戻るような気がする。
 純粋に騒いでいられたあの頃と、色々——なんて言葉で片付けたら雪菜に申し訳なくなるくらいの頃。
 そしてうちの親まで雪菜が篭絡した後で、結婚。
 ……本当に、愛すべき妻だ。
 かずさが廊下に出て行くのを見届け、呟いた。
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  • 2015/10/22(木) 14:58:39.13
>>484
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  • 2015/10/22(木) 16:47:58.18
春希「妻……家族、か。俺になれるか分からないけど。でも……」

 家庭を作るなら、小木曽家みたいな幸せな家族になりたい。小さな幸せを大切にできる、そんな家族に。

?「なれるよ、春希くんなら」
春希「雪菜?」
雪菜「うん、わたしが保証するよ。春希くんならなれる」
春希「……ありがとう。テキトーな言葉でも嬉しいよ」
雪菜「テキトーじゃないよ? 当ててあげよっか、春希くんが何考えてたのか」
春希「間違ってたらオシオキだからな?」

雪菜「えっ!?
   …………、あ〜、うん。やっぱり分からないなぁ! わたしエスパーじゃないもん。
   あぁ〜、怖いなぁっ! どんなオシオキされちゃうんだろうっ」
春希「楽しみにしてんじゃねえよ! かずさと遊んでろ!」
雪菜「あぁん春希くんがいじめる〜! かずさぁ〜!」

 ……全く。可愛いすぎるんだよちくしょうっ!

 ◆◆

 そんなこんなのうちに一週間はみるみる過ぎ、六日目。午後六時。
 俺たちの前には、いつもより余裕をもって完成した楽譜があった。

春希「本番前日に完成して『余裕をもって』って……」
かずさ「お前がなかなか歌詞を作らないからだろ馬鹿」
春希「う……、ぐう」
かずさ「ぐうの音は出すな!」
雪菜「でもやっぱりすごいよねぇっ。これで何曲目だっけ? メロディが思い浮かばなくなることとかないの?」
かずさ「ま、まぁ、あたしくらいになると言葉を見ながらピアノに触れてるとさ、湧いてくるんだよ」
雪菜「へぇ〜! かずさかっこいい!」
かずさ「そ、そう、かな。別にそんな、難しいことじゃない……」
雪菜「仮に難しいことじゃないとしても、それを何度も何度もやってこんなにいいもの創れるのは才能だよ!」
かずさ「そ……そ、かな」
春希「素人に褒められてテレるなよ、プロ」
かずさ「……。雪菜、ごめん。春希には特別コースを受けてもらうことになったから。
    明日以降、春希が廃人になっても恨まないで」
雪菜「ううん、びしばししごいてあげて。わたしはたとえ春希くんが廃人になっても、ずっと愛してるから。
   だから安心してね、春希くん」
春希「もっと別の状況で聞きたかったよ、その言葉」

 今生の別れのように正面から抱きついてくる雪菜。
 俺はその柔らかい肢体をしっかりと受け止める。両手を彼女の腰に回し、至近距離から見つめ合う。
 雪菜が蟲惑的な双丘を押し付けてくる。ふわっとほんのり甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

かずさ「んんっ、ごほん」

 雪菜が上目遣いで見上げてきて、甘えるように微笑した。そして瞼が伏せられ、顔が斜め上に向けられる。
 俺はゆっくりと唇を近づけ、躊躇うことなく雪菜の心に触れた。

雪菜「んっ……ふ、ぅ……んぅ……ちゅ、ちゅ……」

 優しく表面をすくうように。
 時間にして数秒。俺が何かに—ーいや、かずさに遠慮して唇を離すと、雪菜は俺の胸に顔を埋めた。

雪菜「いってらっしゃい、春希くん」
春希「……どこにだよ。同じ部屋で練習するんだろ」
雪菜「すぐそこにある戦場に、だよ」

 雪菜が顔を埋めたまま腕だけで示す。その先には、少し顔を赤くしたかずさが鬼の形相で立っていた。
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  • 2015/10/22(木) 16:56:35.12
>>484
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  • 2015/10/22(木) 19:35:06.10
 そして当日、夜。世間的にはバレンタインで盛り上がっている頃、俺たちは誕生日で盛り上がっていた。

武也「いやー。もう何度でも言うぜ、俺。おめでとう、そしておめでとう!!
   なんつーかなぁ、こうして新婚一年目で無事雪菜ちゃんの誕生パーティもできて、ほんと……俺……っ」
春希「酒飲んで感極まってるとこ悪いけど、武也、お前の出番これで終了だから」
武也「はぁっ!? 出番ってなんだよ、俺とお前の漢坂はこれからだろうがよぉ!」
春希「いやほんといいんで。隅で衣緒と遊んでなさい」
武也「格は、格は足りてるはずなんだッ……!」

 宴もたけなわとでも言おうか。めんどくさい酔っ払いは置いといて、小木曽家リビングを見回す。
 雪菜の家族や麻理さん、杉浦たち四人に、和泉、柳原さん、武也、衣緒。そして雪菜とかずさ。
 身内だけの、ささやかだけど大切なパーティ。
 ささやか、なんて言いながら余裕で十人を越える『身内』はきっと、雪菜が勝ち取ったものなんだ。

朋「雪菜、今日は歌うって聞いたんだけど。『お客様』をこんなに待たせていいの?」
雪菜「分かってるよ、もう。ちょっとくらい待てないの?
   それにわたし、柳原さんは呼んでなかったのに……」
朋「はぁ!? さっすが小木曽雪菜、最大のライバルから逃げて結婚した挙句、
  ヌルいお友達と群れるしかできないのねぇ〜」
雪菜「北原雪菜」
朋「え?」
雪菜「だから、名前。き・た・は・ら、雪菜。間違えないでね、柳原朋さん」
朋「くっ……!」
衣緒「雪菜、後輩いじめなんかしてないで歌の準備してきな」
雪菜「うん、ケーキでも食べてちょっと待っててね。着替えてくるから」
朋「男がいるからって、男がいるからってこいつら……うぅー!」
小春「あ、あのっ、おぎそせん……北原先輩……だとどっちか分かんないし……」
雪菜「雪菜、って呼んで。杉浦さん」
小春「はいっ! 雪菜先輩、わたしたちも期待してます! と、冬馬先輩も頑張ってください!」
かずさ「ああ。ま、あいつの歌詞じゃ、あたしの曲も雪菜の声も形無しだけどな」
麻理「後で独占インタビュー、お願いしますね」
かずさ「…………」

 雪菜とかずさが二階へ向かう。俺は五分おいて雪菜の部屋へ。
 扉を開けると、そこには着替えを終えた雪菜とかずさがいた。
 衣装は学園祭の時のアレ。
 俺も当時のアレ—ーつまり制服に着替えると、キーボードとギターを持って二人に向き直った。

春希「かずさ、いけるな」
かずさ「こんな余興でいけるも何もない」
春希「雪菜、いこうか」
雪菜「うん」
かずさ「春希、いけそうにないな」
春希「うるさいよ!」

 三人で部屋を出てリビングへ。ささやかな歓声を受けつつセッティング。位置につき、ギターを構える。
 不意に雪菜が振り返る。何だと思う間もなく、俺は雪菜に抱き締められた。

雪菜「春希くん」
春希「どうした?」
雪菜「……だぁいすき、だよ」

 雪菜が中央に戻り、マイクのスイッチを入れる。かずさの前奏が心地良く耳朶を打つ。
 遅れてなるものかと俺も弦を押さえてかき鳴らす。
 そして。
 鈴のような雪菜の声が響く————。
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  • 2015/10/22(木) 19:49:03.83
実家暮らしの僕はかずさ目覚まし使う勇気はなさそうだ…
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  • 2015/10/22(木) 20:15:44.15
>>492
気にせず買えよ
後で独立した時に後悔するかもしれんし
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  • 2015/10/22(木) 20:49:39.90
そうだな、そうするよ
チケット買うかぁ2日間両方はいけないかもしれないが
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  • 2015/10/22(木) 21:07:17.27
>>494
俺は仕事で片方絶対に行けないから行けたらその分も楽しんでね
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  • 2015/10/22(木) 21:08:15.54
まぁ俺も両方は無理かもしれない…いけたらいくけど
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  • 2015/10/22(木) 22:03:45.10
春希 「驚いたなぁ。かずさにそんな人がいたなんて」
曜子 「…あまり動揺してくれないのね」
かずさ 「こういう男だ。春希は」
春希 「いやいや。驚いていますよ。あんなに曜子さんに仕事漬けにされていた上に、俺たちと会ったときもそんな浮いた様子一つもありませんでしたから」
かずさ 「そんなの隠していたに決まってるじゃないか」
春希 「そりゃ、自分みたいなマスコミの記者に話すなんて日本全国に広めてくださいって言っているみたいなものだしな。
   でも、祝福してくれる人もたくさんいると思うぞ。俺もそうだし」
かずさ 「そういう意味じゃない。ったく」
春希「?」
曜子 「…まあ、いいわ。ともかく、かずさが選んだ事だし。私みたいな趣味の悪い女がとやかく言える話じゃないわね」
春希 「それで、相手の人ってどんな人なんですか?」
かずさ 「橋本健二さん」
春希 「え、えと。どんな人かって質問なんだけど」
かずさ 「な!? お前はアホか?
   なんで今を時めく若手ナンバーワンピアニストの健二さんを知らないんだ? 仮にも記者のはしっくれだろ? お前は!」
春希 「え、えーと。かずさに比べて特徴ない人だから…」
曜子 「おやおや。女王杯始め数々の賞を取った身長2m弱の巨漢の化け物ピアニストが『特徴ない』なんて、まぁ。
   ま、胸の大きさなら私の娘も十分化け物級だけど」
かずさ 「健二さんを化け物呼ばわりするな。あの人はああ見えてそういうのすごく気にする人なんだ」
春希 「はは。無知ですいません」
曜子 「ま、ギター君はできないと自分で決めちゃった線からは本当に努力しないコだもんね。
   ギターの腕にせよ、クラシック知識にせよ」
春希 「…返す言葉もありません」
かずさ 「ふん」
曜子 「ま、人間手の届かない才能目差した努力はしない方がいいわよ。
   幸せにできるのはその手の届く人だけ。好きなだけ崇拝してるだけでは、2、3年は良くても結局5年10年はうまくいかないものよ」
かずさ 「ふん。とっかえひっかえした経験者の言葉かい?」
曜子 「ええ。だから、橋本さんとの縁は本当に歓迎しているわ。
   あなたのような、ピアノだけのちょっといびつに育ってしまった娘を、その才能を、崇拝でもなく知識としてでもなく、同じ才能を持ち共に歩んで行ける存在として受け止めてくれる人と出会えたんだから」
かずさ 「ふふん♪」
春希 「良かったですね」
曜子 「おや? あなたの『良かった』は『フった女が幸せに収まりそうで良かった』の意味じゃなくて?」
春希 「ぐ…」
かずさ 「ちょっと! 母さん! それはやめろよ!」
曜子 「あらあら。ギター君、わかりやすい表情。ひょっとしてかずさがこの先独身だったらどうしようとか気に病んでくれてた?」
春希「……」
かずさ 「フフン。残念だったな」
春希 「い、いえ。…そ、そういえば、お二人の馴れ初めなど聞かせていただけると…」
曜子 「かずさの方からよ。もう、猛烈アタック。そうしなきゃダメって経験が生きたわね」
かずさ 「(赤面)ちょっと! 母さん!」
春希 「はは…普段のかずささんからはなんだか想像できませんね」
曜子 「冬馬家の女の性欲なめんな。男ナシで20代の盛りを乗り切れるワケないでしょ」
春希 「……」
かずさ 「…あんたの血を受け継いでこれほど後悔した日はないな」
曜子 「ま、そういうワケで。明日の記者会見までは口外禁止でね」
春希 「いえいえ。ありがとうございました」
曜子 「じゃ、またね」
かずさ 「またな、春希。…あ、そうだ。もうひとつだけ教えてやる。耳を貸せ。春希」
春希 「なんだい? かずさ」
かずさ 「(ゴニョゴニョ)」
春希 「…(がくっ)…そりゃ、向こうは身長2mで…(ぶつぶつ)」
かずさ 「じゃあな。春希」


曜子 「さっきギター君に何吹き込んだの? カレ、心へし折られたような表情してたわよ」
かずさ 「…いや、健二さんの方が大きくて固かったって」
曜子 「…えげつない子ね。さすが私の娘ね」
かずさ 「いや、自分でもえげつないと思うけど、あたしやっぱり母さんの娘だよ」
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  • 2015/10/23(金) 04:34:20.09
・デュッセルドルフ、コンサート後の控え室

春希「お疲れ。かずさ。少し部屋から出ないか?」
かずさ「やめとく。今日の演奏の調子がどうだったかぐらいわかってる。評判が聞こえてくるのもイヤだからいつものように部屋に引きこもっているさ」
春希「(耳が良いのも考え物だな…)わかったよ。じゃあ、興行主さんの所に挨拶に行ってくる」


・興行主の部屋

興行主「お疲れ様。ミスター北原。かずさ嬢はお疲れだったのかな?」
春希「…先日、日本からウィーンに戻ったばかりですので少し旅疲れがあったかも知れませんが、次の公演にはちゃんと…」
興行主「いや、追加公演は不要だよ。しばらくは休んだ方がかずさ嬢にもいいのでは?」
春希「(あんな事があってからよく夜にうなされてるしな…)…ありがとうございます。お気遣い感謝します。では」
興行主「ミュンヘンやベルリンにも冬馬かずさの名は知れ渡ってしまっただろうから、ゆっくり休むといいさ」
春希「……」


・再び控え室

かずさ「どうだ? 興行主さん怒ってた?」
春希「いや。ただ、追加公演はないって」
かずさ「じゃあ、赤が出るか。ゴメンな、春希」
春希「いいさ。公演できるところをまた探せばいい」
かずさ「ああ。幸い母さんのおかげで世界中に助けてくれる人はいるし、食うには困らないさ。…なあ、春希」
春希「なんだ? かずさ?」
かずさ「オケとか探すか? 定期的に演奏入った方が春希も楽だろ」
春希「…いや。やめといたほうがいい」
かずさ「…わかった。じゃあ次の仕事また頼むよ。マネージャーさん」
春希「ああ」 

春希「(協調性のないかずさがオケなんかに入ったらつぶれかねない。それに、かずさを独占していたい…)」
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  • 2015/10/23(金) 04:56:31.14
・テッサロニキ、コンサート会場控え室

かずさ「おい」
春希「なんだ? かずさ」
かずさ「この控え室、壁が薄い。隣りの声が聞こえる」
春希「? 聞こえないよ。気のせいじゃないか?」

 どんっ

かずさ「あたしが聞こえるって言ったら聞こえるんだよ!」
春希「や、やめてくれ! かずさ! また控え室荒らして出入り禁止なんてもう勘弁だよ!」
かずさ「…もうたくさんだよ。なんでこんな…」
春希「人の評判なんて気にするなよ。あのジョバンニコンクールの事は覚えている人も多くて、一度演奏聴いてみたいという人は探せばいくらでもいるんだから」
春希「(また聴きたいって人はなかなか現れないけどな)」
かずさ「なあ、春希」
春希「なんだ?」
かずさ「あたしたちの国ってあるのかなあ? 日本には帰れないし、オーストリアには家はあるけど、自主公演もできないし…」
春希「…きっと、そのうち見つかるさ」
かずさ「…どこかに良い国があるといいな」
春希「ああ」

春希「(かずさ、お前は根無しの浮き草だよ。だからこそ、俺が水になってどこにでも流れていける…俺だけがお前を浮かべていられるんだ)」
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  • 2015/10/23(金) 05:01:07.30
・意地の悪い指揮者と商談中

指揮者「ふむ。それはいいがミスター北原、私の問いには答えてくれていないようだが?」
春希「あ、はい。その件については…自分には少し専門的すぎてお答えしかねます」
指揮者「ほう。素晴らしい。私は冬馬かずさのマネージャーと話をする予定だったのだが、どうやら間違えてコメディアンと話し込んでしまったようだ。すまないがマネージャーを呼んできてくれるかい?」
春希「…フランツさん。私が冬馬かずさのマネージャーです」
指揮者「なんと!? いやはや。コメディアン呼ばわりしてすまなかったな。君はコメディアンよりずっと愉快だよ。
 しかし、冬馬曜子オフィスがうらやましいな。音楽家崩れの未成年も雇わず、君のような素晴らしくユーモア溢れる人材を抜擢する余裕があるなんてね」
春希「あの、フランツさん。仕事の話を進めませんか?」
指揮者「残念ながら君と話してるほど長い休暇は取れそうもない。冬馬かずさに来てもらえるかな?」
春希「残念ですが、かずさと直接の交渉はお断りしております。特にあなたのような方とはゴメンだと、かずさからも言われております」
指揮者「そうか。全く、冬馬かずさも幸運な女性だな」
春希「何か?」
指揮者「君という男を選んだばかりに母親のようなピアニストにならずに済んだのだからね」
春希「…それはどういう意味ですか!?」
指揮者「なに。親子で好みが違う事は珍しくない。冬馬曜子は自分を頂点に導く男を好むが、冬馬かずさはその性癖を受け継がなかっただけだろう」
春希「…あなたとはこれ以上話にならないようですね。失礼します」
指揮者「君は君の幸運さを知った方がいい。頂点に立ちたいと思わないピアニストにとって君は最適のパートナーだよ」
春希「くっ…」
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  • 2015/10/23(金) 05:08:51.32
・ワルシャワ近郊の列車内

春希「(ワルシャワでの仕事は取れなかったけど、次に期待できる返答はいただけたし。さて、かずさの待つウィーンまで帰ろう)」
春希「(音楽でも聴いて帰るか。少しでもクラシックを勉強しないとな)」
 〜♪〜♪〜
春希「(しかし、クラシックは眠くなるな)ふああ…」

 …ゴソゴソ

春希「…ん? 寝てたな。まあ、こんな長い列車移動だし…
 って、音楽プレーヤーがない! 鞄が開いてる…財布や携帯、パスポートまで! やられた!
 日本でもあるまいに、列車内で居眠りするなんて…しくじった…」


・大使館

春希「パスポート再発行まではしばらくかかるか…かずさも呆れてたな…」
大使館員「北原春希さん。あなたに面会したいというポーランド人の方が来てます」
春希「誰ですか? …あ、あなたは! ワルシャワに来られていたんですか」


・カフェ

中年男「この度は災難だったね。大恩ある曜子さんのためにも、できるだけのお手伝いはさせてもらうよ」
春希「ありがとうございます。クルクフでも色々口利きいただいた上に、こんな…。お借りしたお金はできるだけ早くお返しさせていただきます」
中年男「気にしなくていい。曜子さんとかずささんによろしく」
春希「すみません。クルクフでもかずさから挨拶なしで…」
中年男「仕方ないさ。私と曜子さんのかつての関係を考えれば、娘であるかずささんには蛇蝎のように嫌われても仕方ない」
春希「……」
中年男「曜子さんには色々教わった。説教もされたよ。
『ムッツリした顔で演奏だけして帰るなんて何様のつもり? 客席にいるのはあなたの腕自慢見にきた審査員でなく、クラシックを楽しみに生きた演奏家に会いに来てくれた人なのよ』なんてね。
 ああ、すまない。私の若い頃を思い出してね。君たちの事にまでどうこういうつもりはないんだが、ついついね」
春希「いえ…」
中年男「まだしばらくワルシャワにいるから、困ったことや悩んでいることがあったら連絡しなさい。遠慮することはない」
春希「すいません。ありがとうございます」


・再び大使館

春希「ふう。やっと再発行の日が来たか。
 すいません。北原春希です」
大使館員「北原さん。お待たせしました。こちらになります。どうぞ」
春希「あれ? これ、パスポートじゃないですよね?」
大使館員「そうですよ。あれ? 説明聞かれていませんでしたか? フライト便とか大丈夫でしたか?」
春希「『帰国のための渡航証明書』…」
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  • 2015/10/23(金) 05:13:54.89
・病院

小男「倒れたって聞いたけど、大丈夫そうだね」
曜子「日本に来てたのね。よくもぬけぬけと私の前に顔が出せたモノね」
小男「ボク、何か悪いコトした?」
曜子「あなたがかずさにちょっとでも期待してるフリしてくれれば、あんな陰険なマネかます連中も出なかったでしょうよ」
小男「ボクはむしろキミこそ何やってんだと思ってたケドね」
曜子「何よ。こっちはこのとおり、仕方なかったのよ」
小男「そうかい? じゃあ聞くけど、キミは彼女たちにどうあって欲しいと願っていたんだい?」
曜子「どうって?」
小男「ボクがキミならドンとデカい公演や共演かまして、フランスのおばちゃんあたり師匠につけてメキメキ経験と力つけさせて世界に通用するコに育てるケドね」
曜子「あの子たちに好きにやらせたいだけよ」
小男「キミがそうして甘やかしてるから、あの子たちもあんなんなんだよ。きっと今回の件も『ほとぼり冷めるまでじっと休めばいいや』程度にしか考えてないでしょ。あの子たち」
曜子「調子出ないうちくらいスネかじりしてくれる方が親としてはありがたいけど」
小男「金コネ出して口出さない、期待のプレッシャーもかけず甘やかしてたら金の卵も腐るよ」
曜子「それはそれであの子たちの選択でしょ。結構な人生じゃないのよ」
小男「むしろあの子たち、日本に名前流れない方がいいとさえ思ってるよね。
 ボクが言うのも何だけど、何しにウィーンに来たのと聞きたくなるよ。ちょっとキミの言うこと聞かせて軽く育てればすぐ日本でも名前が響く子になれるのに、まるでそうなるのを避けているみたい。
 この狭いクラシックの世界で、ワザと名前が漢字にならないよう、日本人の誰かの目に入るのを避ける為にウィーンに逃げてきたみたい」
曜子「何よ。男女関係のトラブルってコトは知ってるくせに」
小男「相手の子の事なんて知らないケド、その子の前を横切り、名前が彼女の目に入るのを避けるために日本を離れウィーンに来としたら、なんて馬鹿げた話だろうと思うケドね。
 あの子ならマトモに活動するだけですぐ『日本人ピアニスト』として有名になっちゃうんだから。むしろ、そうなるのを避けるためにあの旦那さんと食っちゃ寝生活してるみたい」
曜子「まだ、マトモに活動初めて何年もしないじゃない。そのうち育ってくれればいいわよ」
小男「キミはいったい、彼女たちにどうあって欲しいんだい?
 狭い鳥の巣の中で、他のヒナが飛ぶためにエサの奪い合いしてる中、飛ぼうとせず巣の中で温まってるヒナなんて、遅かれ早かれ他のヒナにつつき殺されるよ。親鳥が見てたり、他のヒナと羽並べない限りね。
 昔はもっとひどかった。東洋人なんて頭の黒い音楽家はそれだけでつつかれた。キミもボクもそうだったように。だから、互いに羽並べ友誼むすんでいた」
曜子「だから?」
小男「ボクはキミにどうしたいと聞きに来たんだけどね。今回の件は流石にヤツらもやり過ぎだと思うし、日本人が悪し様に貶められるのも腹立つから、今回だけなら介入してもいいかなとは思ってるケド? その代わり、ボクの好きなように介入させてもらうケド」
曜子「あなたなんかの手を借りなくてもあの子たちは何とかするわよ。もともと世界に羽ばたくなんて大それた目的持ってるわけでもないし」
小男「もうわかったよ。それじゃ、父親の方の意見を聞きに行こう」
曜子「!! それは止めて!」
小男「キミの娘だけど、キミだけの娘じゃない。ジョバンニ4位なんて本当なら誰だって親代わりになって自分の手元で育てたいコなんだよ。あの旦那さんじゃなければね」
曜子「あの2人の仲を裂いたら八つ裂きにするわよ」
小男「それはしない。ただ、あの男の話を聞きに行くだけだよ」
曜子「やめて。まだ、あの人は知らないのよ!?」
小男「知らないってコトは本当に厄介だね。彼の意見がキミと同意見であるといいけどね。じゃあね」
曜子「二度と来るな!」

曜子「かずさ。私は自分に歩めなかった道をあなたに歩ませたがっているだけかもしれないけど、でも、それでもあなたを愛しているのよ・・・」
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  • 2015/10/23(金) 05:17:50.29
 日本を飛び出して、あの日から何も変わっていない。

11年前のあの日から変わらぬこの部屋。大きく変わる事のなかった部屋。変わる事の出来なかった部屋。
 そう、11年たって尚、俺達は二人だった。別に避妊をしていた訳じゃない。寧ろ、毎日のように何も考えずにお互いの体を求めあった。貪り合い愛し合った。
 だが、それでもかずさが妊娠した回数はたった3回。その全ても流産という最悪の結果で終わった。

 神に、咎人に祝福は与えないと頬を殴られたような気がした。罪人は罪人同士で、何も残せず死ねばいいと告げられた気がした。
 神を憎んだ事もある。恨んだこともある。だが、それに意味などないと何度も実感した。

流産の度に慟哭の声を上げるかずさ。かずさを抱きしめながらも俺もかずさに見られないように何度も涙を流した。


 そして、三度目の流産と同時に曜子さんの訃報が知らされた。懸命の治療に関わらず、帰らぬ人となった。
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  • 2015/10/23(金) 05:25:50.99
「あ゛ぁ”あ゛」

 分かっている。そんな事分かりきっている。
 あぁ、そうだ。かずさは死んだんだ。

 曜子さんと同じ病。ただ、それと同時に風邪を患ってしまってそれが災いした。ただの風邪だったモノが数日もしない内に肺炎となり、そしてあっけなく命を奪ってしまった。
 たった数日前まで元気にピアノを弾いていたかずさ。こちらが呆れる程に俺に甘えてきたかずさ。窘めるぐらいに甘いモノを口に頬張っていたかずさ。

 だっていうのに、たった数日で帰らぬものとなってしまった。

 今でも、かずさが傍にいない事が信じられない。探せばどこかにいると思ってしまう俺がいる。
 だけど、葬儀の準備をしたのも、棺に納められ埋められたかずさの事も俺は覚えている。俺は、覚えているっ!
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  • 2015/10/23(金) 05:27:08.31
「パパっ!」

 俺とかずさの家が見えなくなって雪菜を振り切るように歩きかけたその時に、その声は聞こえた。

 同時に、胸元へとドンっとぶつかる音と衝撃。

「パパッ!」

 おいおい、俺がパパって。俺は、神様に親になる事が許されなかった人間だっていうのに。

 抱きしめ、涙すら流している目の前の少女。
 そこには、栗色と黒の中間という欧州では珍しい髪の色。
 目の前の少女には悪いけど、きちんと親の元に帰さないと。

 ぐいっと、引き離して女の子の顔を見る。
 顔立ちはやはりこちらでは珍しいアジア系の顔。それも、顔立ちと服装から日本人の子供。
 俺から離れるのがよほど嫌なのか、イヤイヤと首を振って力いっぱい近づいてくる女の子。
 顔立ちは、誰だろう。何故だか、嫌な予感が止まらない。あぁ、そうだ、そうだ。雪菜の家で見た、小さいころの雪菜に、よく…………似ている。

「私の、子供だよ」

 何時の間に泣き止んだのか。いつのまに降りてきたのか。後ろの方で赤い眼をしてそう断言する雪菜の顔がよく見えない。

 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!

「私と、春希君の子供、だよ」

 目の前の子供は十歳ぐらい。確かに、それなら辻褄が合う。かずさの手を取るまでは当たり前のように体を重ね合っていた。安全日も考えてはいたが、その日は付けていなかった。

「あ゛ぁあ゛あ」

 声が出ない。
 そうか。そうか、そうか。そうかっ! そういう事かよ、神様。俺とかずさの子が出来なかったのは、俺に、雪菜との子供がいるから!
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