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  • 2014/03/28(金) 12:42:24
パソコンを漁ってたら出てきた昔の小説です
不定期に投下いたします
ここまで見た
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  • 2014/03/28(金) 13:14:46
「それなら私もクレアでいいぞ、勤務時間以外なら」
「了解しました、クレアさん。これから同僚として仲良く致しましょう」
「わかった、歓迎会を潰してしまって悪かったな。今日は私がブライト君を歓迎しよう」
クレアが酒杯を掲げる。ブライトもにっこり笑ってそれに答える。
「乾杯」
「ええ、乾杯」
杯を交わす。
「ではとことんまで飲むとするか、言っておくが私は強いぞ」
このときクレアの顔の赤さは酒の力だけのものでは無かったかも知れない。
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  • 2014/03/28(金) 13:15:12
2677年4月6日 17の刻半ば
パレス正門前、チェリーブロッサムの花はすっかり散り、木々は緑の若葉を飾っていた。
教会の半鐘がなり、ブライトの本日の勤務が終わったことを知らせる。
先輩の騎士が来て交代の合図を伝える。
「お疲れ様です。失礼いたします」
ブライトが敬礼する。
「お疲れ様、それから今日も彼女さんが来てるぞ」
交替の先輩騎士がブライトに伝える。
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  • 2014/03/28(金) 13:15:46
「彼女じゃないですよ、ちょっと知り合っただけです」
詰所に広まった誤解は解けてないようだった。
――あれから毎日来てるんだからしょうがないけど
詰所に行くと、クレアが居た。
「来たな、早く着替えろ。急げ」
「了解しました」
ブライトは男子更衣室に行き、急いで鎧を脱ぎ私服に着替える。
更衣室から出てクレアと一緒に詰所から出る。
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  • 2014/03/28(金) 13:16:40
――これじゃ勘違いされるよな
近衛騎士団本部はパレス前広場北側にあるベルフラワー門のすぐ内側にある。
ブライトとクレアはベルフラワー門を出て広場を堀沿いに歩き、近くにあるピースフィールドハウス噴水公園まで歩く。
日の沈もうかという夕方、噴水の音が鳴り響いていた。
二人は並んでベンチに座った。
「ほれ、メアリ殿のしたためた手紙だ」
ブライトはここ5日間、メアリと手紙を交換していた。
「ありがたく頂戴いたします」
「なんでこのような事をせねばならんのだ、第一私は舎人じゃなくて騎士だ」
ブライトは苦笑いしながらメアリからの手紙を受け取った。
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  • 2014/03/28(金) 13:17:18
「まぁまぁ、メアリさんもパレス勤めのメイドとして色々思うところもあるんでしょう。下心はありませんよ」
封筒を開け、便箋を広げ、文章を読む。
「ふん、どうだか。なんて書いてあるんだ」
「えーと…料理の腕前が上達してマナさまとカヤさまに褒めてもらったと書いてます」
「他には何かあるのか」
「あとは…明後日の生誕祭の為…明日昼の13の刻から買い物に付き合ってほしいと」
「なんだと!それは許さん。断じて許さんぞ」
「メイドさんだし必要なんじゃないですか?甘茶買うくらい付き合いますよ。明日非番ですし」
明後日4月8日は帝国民に信仰されている教えを広めた、救世主シダルタ=ムニの誕生日であり、かの像に甘茶をかける神聖な儀式がある。
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  • 46
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  • 2014/03/28(金) 13:17:59
「そういう問題ではない!私も付き合うぞ!…後輩がパレスの者に手を出さんか見張ってやる!」
「明日非番なので?」
「…有給をとる!」
――生誕祭前夜の日に有給休暇とは度胸ありますね
「じゃあシルバーギルド街にお茶を扱ういい店を知ってるんです。そこに行きましょう」
クレアがジト目でブライトを見る。
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  • 47
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  • 2014/03/28(金) 13:18:20
「…私はお前にもう借りを返してるんだぞ。それを忘れるな」
何か意味深な事を言うとクレアは立ち上がった。
「では明日13の刻に、この場所で」
ブライトも立ち上がり、敬礼した。
クレアは軽く敬礼し、何も言わずに、その場を去って行った。
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  • 2014/03/28(金) 13:18:56
2677年4月7日 13の刻 ピースフィールドハウス噴水公園

「ブライトさん、こんにちは!」
「こんにちは、御二方さま。今日は晴れて良かったですね」
「…御苦労」
三人とも目立たない私服を着ていた
「もう御両様とも御昼食は召し上がりましたか?」
ブライトが尋ねる。
「もぅ、堅苦しいですよ。もっと気を抜いてください」
メアリが照れながら言う。
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  • 49
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  • 2014/03/28(金) 13:20:00
「そうですか、では騎士ではなく一介の男子としてお話しします」
ブライトが肩の力を抜く。
「はい!今日はどこに行くんですか?私パレスからあまり出たことないから一度地下列車って乗ってみたかったんです」
「いえ、シルバーギルド街ですからね。歩いてすぐですよ」
「歩くのか?馬車を使え馬車を!」
クレアが口をはさむ。
「シルバーギルド街ですか!昔カヤさまとお忍びで言ったことがあるんですよ」
「はい、では行きましょうか、お嬢様方」
「ブライト、聞け!」
クレアが叫ぶと、メアリがクレアをきっと見つめた。
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  • 2014/03/28(金) 13:20:59
「クレアさん。殿方のもてなしを受けるというのは、淑女の務めですよ?」
メアリが口調を変えてクレアに言う。
「も…申し訳ありません」
――どうやらメアリさんの方が立場が上らしいな
「メアリさんはクレアさんより長くオータムパレス家におられるんですか?」
「はい、私はずっと小さいころからオータムパレス家にいました。クレアさんはまだ2年目でしたっけ?」
「はい、騎士としては5年目ですが」
――ってことは26くらいか。尉官ってことは高級官僚試験通過組だな。
メアリが澄ました顔から元気な顔に戻る。
「じゃあ行きましょうか!お話いろいろ訊かせて下さい!」
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  • 51
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  • 2014/03/28(金) 13:22:22
春の陽射しの中、三人はパレス前広場を南下していた。
「…というわけで、受けた面接全部落ちてしまいましてね」
「世間はいろいろ大変なんですね」
「で、親友に勧められたのが騎士だったんです。私は昔から空想科学小説が好きで」
「科学って、昔話や童話によく出てくる不思議な現象を操る術のことですよね?」
「科学なんかが好きとは意外と子供っぽいのだな」
クレアはメアリを挟んでブライトの反対側を歩いていた。
「まぁ科学自体は迷信ですけどね、この魔法万能の世の中では」
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  • 2014/03/28(金) 13:23:04
「そんなこと無いですよ!不思議な術を使う科学者さんがいたとすればワクワクします!」
「そういう小説に出てくる白馬の騎士に憧れた、というのが動機です」
「へー、だから難しい言葉を沢山知ってるんですね」
「まぁ語学だけですがね、得意なのは」
そんなことを言いながらパレス前の広場を三人は歩いていた、昼下がり、広場には多くの観光客がいた。
「あっ、あれカンファツリー侯爵像ですよね!すごい、あんなに大きかったんだ」
メアリが指さした先には681年前に皇帝に忠義を尽くし命を絶った、馬にまたがったカンファツリー侯爵の銅像があった。
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  • 53
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  • 2014/03/28(金) 13:24:42
まわりには芝生があり、大勢が休んでいた。
「記念に真影撮りましょうよ、真影!ほら、最新式の霊子真影器持ってきたんです!」
真影とは光の精霊を操り見たままの姿を写し記録する魔法技術である。
「ちょっとメアリ殿、いいかげんにしてください!」
クレアが止める。
――止めた方がいいのかな?
「すいません、このボタン押してくださいね?」
メアリはにこやかにそう言うとクレアに真影器を渡し、侯爵像を背面に立つ。
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  • 2014/03/28(金) 13:25:22
「ほらほら、ブライトさんも来て下さい!」
ブライトも侯爵像に背面を向け、メアリと並ぶ。
クレアはしぶしぶ真影器を構えた。
「では撮りますよー、ひーふーみー」
ピピッ
盗撮防止用の霊子音が鳴る。
「撮りました」
クレアが言う。
「ありがとう、クレアさん。では今度は貴女とブライトさんでどうぞ。私が撮ります」
「え!?いえいえ、そんな訳には」
クレアが驚く。
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  • 2014/03/28(金) 13:25:53
「私が撮りますよ、御二方はそこに並んでください」
ブライトは気を使ったつもりでそう言ったが
「それは許さん、もう一枚撮るぞ」
クレアに一蹴された。
「撮りますよー、もっと笑ってください。ひーふーみー」
ピピッ
――クレアさん、なんかノってるな
クレアは今度は若干下から見上げ、プライトと侯爵像が全体に納まるよう撮影した。
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  • 56
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  • 2014/03/28(金) 13:26:32
パレスから歩いて少し
シルバーギルド街は人や馬車が行きかい、賑わっていた。
三人は近世の裁判所跡に建てられた、大きな百貨店の中にいた。
「ここです」
ブライトがなじみの店を紹介する。百貨店の一角を間借りしている茶葉屋であった。
「えーっと、ヴァーチュリバー家直営店。ですか」
「はい、先ほどお話した親友はヴァーチュリバー家の者なんです」
「知ってるぞ、お茶処で有名なサイレントヒル県の旧貴族だな」
「それでよろしければこちらを御贔屓にしていただければと…」
――あいつも苦労してるしな、メアリさんを通じて皇室御用達にでもなれば万々歳だ
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  • 2014/03/28(金) 13:27:08
「わかりました!案内してください」
メアリは答える。店の中に嬉しそうに駆け込んだ。
「クレアさんもどうぞ」
「…それは友人を思ってのことか」
「それもありますが、ここのお茶は本当に美味しいんですよ、パレスの中で働いている皆様にも美味しいお茶を頂いて欲しいんです」
「…それなら良いが」
「クレアさんも早く来て下さいよー!いろんな物がありますよー!」
本日、生誕祭前日、茶葉屋では甘茶の販促を行っていた。
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  • 2014/03/28(金) 13:27:45
メアリは、陶器でできた茶器、ティーポットやカップなどの陳列品に興味を注いでいた。
「あら、お坊ちゃまのお友達のファウンテンヘッドさん。賑やかな事で」
店の女性がブライトに声をかける。
「お久しぶりです、女将さん。こちらは私の仕事仲間でして」
――メアリさんも同じパレスで働く仲間だし嘘は言ってないよな
「あらあら、前夜祭の日にですか?じゃあそういうことにしておきましょうか」
「本当ですよ。本日は明日の生誕祭に使う甘茶を探しに来たんです」
「わかりました。いいのをお渡しします。そちらの彼女様も今後とも御贔屓に」
「彼女ではない!同僚だ」
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  • 59
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  • 2014/03/28(金) 13:28:22
「まぁまぁ、落ち着いてください。女将さん、新茶の季節にはまた寄らせて頂きます」
「茶葉の季節は五月だったな。ということはその甘茶は昨年にとれたものか?」
クレアが質問する。
「え?」
ブライトは固まる。
――あなた官僚ですよね?
「いえ、甘茶はヒドランジアの変種を乾燥させたものです。いわゆる紅茶や緑茶とは違う植物を乾燥させたものです」
女将は慣れた風に説明する。
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  • 2014/03/28(金) 13:28:41
クレアは顔を赤くした。
「クレアさん恥ずかしー」
メアリが気にいったティーカップの小箱を持って戻ってきていた。
「これ気に入りました。こちらのティーカップも頂けますか?」
「わかりました、どうぞこちらの茶店で休んでいってください。甘菓子をサービス致します」
女将は隣にある喫茶店に三人を招き入れた。
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  • 2014/03/28(金) 13:29:10
「本当においしいですねー!」
三人は喫茶店で茶を飲んでいた。喫茶店には多くの人が居た。
「新茶の季節はもっと美味しいですよ。ぜひお得意様になってください」
「わかりました、よろしければまたエスコートしていただけますか?」
「非番の日であれば何時でも構いませんよ」
ブライトが答える。
クレアは無愛想に甘菓子をつついていた。
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  • 2014/03/28(金) 13:29:40
「でも良かったんですか?公務中にティーカップなんか買っちゃって」
「あ、いえ!これは私のお小遣いで買いました!」
「お小遣い?御給金じゃなくて?」
ブライトが訊く。
メアリは少し間を置き
「あ、はい。お恥ずかしながら私、まだお父様からお小遣いをもらっているんです」
と答えた。
――パレスのメイドさんってことはさぞかし由緒正しい家の子なんだろうな
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  • 2014/03/28(金) 13:30:14
「あんまり詮索はするな」
クレアが釘を刺す。
「すいません、出過ぎた真似を。あと口にお菓子のかけらがついてますよ」
そう言われたクレアは慌てて手鏡を出した。確かに菓子のかけらがついていた。慌てて置いてあった紙で口元を拭う。
「だめですよー、ブライトさん。デリカシーに欠けます」
メアリは人差し指を立てる。
「重ね重ねすいません。無粋なもので」
「騎士は女性の気持ちを考える義務があるんです」
――女性の気持ちがわかったらそれほど楽な事もないだろうな
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  • 2014/03/28(金) 13:30:34
ブライトがそんな事を考えていると
「でも私はすごく楽しかったです!今日は我が侭に付き合っていただいて本当に有難うございました!」
「そう思っていただけたら幸いです」
「この近辺にはいろいろなお店があるんですね!また劇場にでも誘ってください」
――そしたら懲戒免職です
クレアがナイフのような目でブライトを睨んでいた。
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  • 2014/03/28(金) 13:31:15
シルバーギルド街からパレスまでの道のりは短いものだ。
前夜祭の日、シルバーギルド街からパレスへと伸びるサニーオーシャン通りは人波でごったがえしていた。
買い物を終え、パレスに向かう三人は街ゆく人とすれ違っていく。カップルが若干多い。
「ゼルコヴァの木々が綺麗ですね、クレアさん、これも真影に撮ってくれませんか?」
メアリはブライトとクレアの間を歩いていた。
ピピッ ピピッ 
クレアは真影器を構え、木々を撮る。
ブライトは甘茶とティーカップの入ったバスケットを持っていた。
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  • 2014/03/28(金) 13:31:56
――もうすぐ15の刻かな
ブライトがそう思った時、二人の男とすれ違い異国の言葉が聞こえてきた。
「インチィ、バァォダンマ?」
「ミンティアン、シィバァディェンインファ」
――え?
ブライトはそこに立ち止まった。後ろを振り向くと、異国の者達の後姿が離れていくのが見えた。
「すいません、メアリさん。今日はここまでで構いませんか?一人で帰れますよね?」
「えっ、パレスまでは送っていただけないのですか?」
メアリが悲しそうな顔をする。
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  • 2014/03/28(金) 13:32:30
「おい、どういうつもりだ」
「すいませんがタイラー中尉、暫くの間でいいんで恋人の振りをして私と腕を組んで歩いてくれませんか?」
「えっ」
メアリが更に悲しみを見せる。しかしクレアは冷静に返す。
「…急を要するのか?」
「はい」
「…わかった。ファウンテンヘッド君」
ブライトがメアリにバスケットを渡す。
「ではこれで、また埋め合せいたしますので」
クレアとブライトは今来た道を引き返した。メアリを残して。
二人がいなくなってからメアリの周りを3人の女性が取り囲んだ。
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  • 2014/03/28(金) 13:33:00
サニーオーシャン通りを引き返すブライトは精霊札に触れ、操作していた。
「公開情報網から目的の音を落としました。ではタイラー中尉、説明したようにお願いします」
「ああ、しかしうまくできるかな?なにぶん男性と腕を組んで歩いたことなど無いのでな」
「杞憂であればそれに越したことはありませんがね」
クレアは左腕をブライトの右腕にまわす
すこし早足で歩き、異国の男二人組を追い越す。
ブライトは、自身の精霊札を地面に落とし、そのまま歩く。
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  • 69
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  • 2014/03/28(金) 13:33:37
「1、2、3、4、5」
ブライトが数字をカウントする。
ピピッピピッピピッピピッピピッピピッ
異国の者たちの足元で精霊札が鳴る。
男二人は一瞬立ち止まったがすぐに無視して歩きだした。
クレアはブライトと道路脇に寄り、立ち止まる。
男二人が追い越したのを確認すると、ブライトは落とした精霊札を取りに行く。
ここまで見た
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  • 2014/03/28(金) 13:34:00
ブライトは精霊札を拾い、クレアの近くに戻る。
「うまく撮れましたか?」
ブライトが訊くと
「ああ、バッチリ写っている」
クレアの持った真影器の裏面には、異国の男二人の顔が写っていた。
「では番所に転送して後をつけましょう、見失わない内に」
ブライトとクレアは再び腕を組んで歩きだした。
ここまで見た
  • 71
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  • 2014/03/28(金) 13:34:52
異国の男はもう一人の男と別れ、地下道を歩いていた。
周囲に人影は後ろをついていくブライトとクレアのみであった。
――今しかないな
ブライトはクレアから離れ、早足で進み始めた。
脇からブライトが一人になった異国の男を追い越し、少し距離を置いた所で振り返り、騎士証を見せる。
「チン、ウォースゥチィシィ、ドゥイブゥチィ、クゥイィチンマ?」
クルッ ダッ
ブライトがそう言うや否や、男は来た道を引き返し一目散に走り出した。
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  • 2014/03/28(金) 13:35:22
「確定です!そいつを捕まえてください!」
逃げた先にはクレアがいる。男は細い地下道の真ん中を歩くクレアに向かい走って行った。
「ビキョ!」
男が叫ぶ。クレアはわずかに身を避ける。しかし次の瞬間。
ブン!
クレアは逃げる男の手を掴んで勢いを利用し、ぶん投げた。
ガシッ ギリッ
クレアは仰向けに横たわった男の腕を持ち背中に回し、動けないよう腕を決める。
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  • 2014/03/28(金) 13:35:56
「テゥ!テゥ!」
「ファウンテンヘッド君、今は何刻の何分だ?」
「えーっと、15の刻、18分です」
ブライトは精霊札に表示された時刻を告げる。
「公務執行妨害で現行犯逮捕だな」
クレアは服の中から手錠を取り出し、男の両手にかけた。
「なんでそんなもの持ってるんですか、非番なのに」
「ひょっとしたら使うかと思ってな、備えあれば憂いなしってやつだ。ふふ」
――誰に使うつもりだったんだか、おお、怖い怖い
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  • 2014/03/28(金) 13:36:25
ブライトが男の服をまさぐる。万年筆くらいの大きさの杖が出てきた。
「えーっと、やっぱりありました。魔法杖。早まらないで良かったです」
魔法杖とは魔法の火などを出す飛び道具であり、サンルート帝国内で一般人や観光客が所持することは固く禁じられている。
――メアリさんを巻き込まなくて良かった
「わかった、人工精霊、通信を飛ばせ!”もう一人も捕獲せよ。なお相手は魔法杖を持っている。注意しつつ多数で囲め”と伝えてくれ」
クレアが精霊札を通じて指示を飛ばす。
「アイゴー」
男がうめいた。
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  • 2014/03/28(金) 13:37:07
「こいつはなんと言ってるんだ」
「私コリョ語はよく分からないのですが…多分悲しんでるんじゃないかと」
コリョとはサンルート帝国の隣の国で、北ヴィヴィド王国と南カーラ民国に分かれている。
「ではこいつはコリョ族か?」
「さっき話していた言葉はミッドランド連邦の言葉でしたからね、北ヴィヴィドの者でしょう」
ミッドランド連邦とは北ヴィヴィド王国の向こうにある大国であり、サンルート帝国とは南方領土をめぐりしばしば領土争いをしていた。
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  • 2014/03/28(金) 13:37:54
「なんと言っていたのだ?」
「それで爆弾は?明日の18の刻に、と言ってました」
「…"爆弾"とはなんだ?」
「科学のお話に出てくる架空の兵器です。火焔と衝撃波を放つ、破壊魔法みたいなものと考えてください」
「花火みたいなものか?」
「だいたい合ってます。あれは火と雷の精を封じたものですけど。異国の言葉でテロ活動の予定を暗号で話し合ってたという所でしょう」
地下道の両方向から警察騎士が走ってきた
「あとはあの方たちにお願いしましょうか。クレアさん」
ブライトがにこやかに言った。
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  • 2014/03/28(金) 13:38:34
5日後 2677年4月12日 20の刻
いつもの居酒屋で、ブライトとクレアはライス酒を飲んでいた。
クレアが勢いづけて酒杯を机に置く。
「あーれーかーらーメアリ殿の誤解を解くのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!よくもあんな作戦考えてくれたな!」
「まぁまぁ、今回のテロを未然に防いだってことで大尉に昇進されるんでしょ?今日は祝いましょう」
「ふん!あれは貴様の考えた作戦だろう。私の功績では無い」
クレアが横を向く、瞳だけはジト目でブライトを見ていた。
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  • 2014/03/28(金) 13:39:29
「手錠掛けた人が一番の功労者ですよ、職務上」
「しかしとっさによくあんな作戦考え付いたな」
キャメラの撮影音と同じ音を公開情報網から検索し、精霊札のアラーム音にする。
あとはそれを地面に落として容疑者が注意を向けたすきに腕を組んだ影からこっそり真影を撮る。盗撮防止音はアラーム音で隠れる。
もちろん真影器の正面は後ろを向いている、後ろを振り返らずに顔が写っているかどうか確認する為にはクレアの手鏡を使った。
「あの時点では友達同士でのおふざけ話だったかも知れませんでしたからね、テロリストの情報基盤と照合する為には顔真影がないと」
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  • 2014/03/28(金) 13:40:08
ミス
キャメラ→真影器
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  • 2014/03/28(金) 13:40:38
「…その可能性の為にメアリ殿にあんなことを言ったのか」
「帝国の治安を護るのが騎士の務めですからね。一刻を争う状況でしたし。それにあれくらい言っておかないと後をつけてきたでしょうし」
「メアリ殿、悲しんでおられたぞ」
「私も心苦しかったんですよ、でも、色恋沙汰より公益を優先しました。クレアさんが私の意図を読んでくれたのは有難かったです」
ブライトがいきなりクレアを苗字で呼んだのはそういう訳であった。クレアも即座に理解し返答した。
「…またメアリ殿と会ってくれないか。お前の言葉で直に説明すべきだ」
「許されるのなら喜んで」
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  • 2014/03/28(金) 13:40:58
「…メアリ殿もそれをお望みだ、案ずるな。しかし一つ解せない事がある」
「なんですか」
「…真影を撮った後は腕を組む必要は無かったのでは?」
「このマクレル魚の煮付け美味しいですよ」
「誤魔化すな!」
――生誕祭前夜なんだし、ちょっと魔が差したんです
そんな事は言えなかった。
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  • 2014/03/28(金) 13:41:25
同刻 パレス内 オータムパレス邸

「それではお姉さま方、お先に休ませて頂きます」
メアリがリビングにいるマナ内親王とカヤ内親王に告げる。
「お休みなさい」
25歳の長女、マナ内親王はメアリに返す。手にはティーカップを持っていた。
「メアリちゃんもう寝るの?」
同じくティーカップを持った22歳の次女、カヤ内親王がメアリに問いかける。
「カヤさん、メアリさんも大学が始まったばかりで疲れているのよ」
マナ内親王がたしなめる。
ここまで見た
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  • 2014/03/28(金) 13:41:58
「お休みなさい」
メアリが部屋から出ていき、自分の部屋に戻る。
「なんかメアリちゃん、最近変ね」
カヤ内親王が首を傾げる。
「簡単な事よ、あの子は恋をしてるだけ」
マナ内親王が凛とした切れ長の秀麗な目を細め、そう言う。
「えっ!ホント?あの子もいつの間にかそんな年に?」
カヤ内親王が丸っこい二重の可憐な目を輝かせてそう言う。
「マナお姉ちゃん!詳しく聞かせて!」
カヤ内親王はマナ内親王に詰め寄る。
「それはね――」
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  • 2014/03/28(金) 13:43:07
マナ内親王がそう言いかけた時、リビングに二人の、父君であるフミ第二皇子と、弟君のヒサ親王が入ってきた。
二人とも寝間着を着て、頭から湯気が出ている。
「いいお湯でしたよ」
51歳の、口ヒゲを生やした優しそうな父君がそう言った。
「マナお姉さま、今日も歴史の講釈をお願いします」
利発そうな10歳の弟君もそれに続く。
「わかったわヒサ君、では今日はムツ聖大帝の近代化革命まで進むわね」
「えーお姉ちゃん、話はー?」
「それはまた今度ね、カヤさんはお風呂まだでしょ?入ってきなさい」
ここまで見た
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  • 2014/03/28(金) 13:43:34
「はーい、わかりました」
「?何の話だ?」
フミ殿下が娘であるマナ内親王に問いかける。
「いえ、メアリさんがお父さまそっくりという話ですわ」
メアリと同じ年頃に、フミ殿下は後の妃となるキキに恋をした。
「そりゃメアリは私の娘だ、似るのは当然だろう」
皇帝の次男であるフミ殿下は不思議そうな顔をしていた。
ここまで見た
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  • 2014/03/28(金) 13:44:02
オータムパレス家の三女、メアリ=オータムパレスは自分の部屋で、思い悩んでいた。
「ブライトさん…」
クレアからもらった侯爵像前の真影をメアリ内親王は見つめていた。
メアリ内親王の顔は両方とも見切れて写っていなかった。
皇族は成年するまで顔も肉声も記録してはならない。クレアの伝統への配慮だった。
甘茶を買いに行ったあの日、実はあの場に三人ほどクレアの部下がいた為に、クレアは安心してメアリをその場に残した。
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  • 2014/03/28(金) 13:44:30
「今日は満月ね…」
月の光は恋する者を魅了する、どこかであの人も同じ光を見ているという希望から来るのだろうか。
4月1日の万愚節についた嘘は、彼女を苦しめていた。
私はいずれ、身分を明かさなければならない――
でも、そしたらあの方は、どう思うのだろう――

――メアリが公に顔と名前を明かすまで、あと687日。帝国歴2677年4月12日 満月の日の夜であった――

 終わり
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  • 2014/03/28(金) 13:45:13
終わりです、読んでくれた方ありがとうございました
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  • 名無しさん
  • 2014/03/28(金) 17:05:24
ああああ
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  • 90
  • 名無しさん@おーぷん
  • 2014/07/15(火) 16:06:38
永井産業
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