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  • 1
  • Mr.anonymous 転載ダメ©bbspink.com
  • 2015/06/22(月) 17:45:59.01
主にfrozenを。sage進行でお願いします。

【frozen】海外二次創作を翻訳するスレ【SS】
http://kilauea.bbspi...cgi/bbbb/1407070345/

【frozen】海外二次創作を翻訳するスレ【SS】2
http://kilauea.bbspi...cgi/bbbb/1409761918/

【frozen】海外二次創作を翻訳するスレ【SS】3
http://kilauea.bbspink.com/test/read.cgi/bbbb/1412392606/

【frozen】海外二次創作を翻訳するスレ【SS】 4 [転載禁止]©bbspink.com
http://aoi.bbspink.com/test/read.cgi/bbbb/1415019196/

【frozen】海外二次創作を翻訳するスレ【SS】 5 [転載禁止]©bbspink.com
http://aoi.bbspink.com/test/read.cgi/bbbb/1424048604/




■r9k Elsa is Suffering 翻訳まとめサイト
http://r9kelsa.web.fc2.com/index.html


■FanFicの探し方

ElsAnna FanFiction Library
http://www.reddit.co...Elsanna/wiki/library

neiromaru's list
http://www.reddit.co...fic_recommendations/

18禁 Rated:M
近親相姦 incest
原作設定 Canon
現パロ Modern、mAU
ふたなり g!p
攻め DOM
受け SUB
ここまで見た
「もう少し、よく考えてみたの」
エルサが何も言わなかったかのように、アナは話し続けた。
「私は本当の結婚生活が欲しい。そう言ったわ」

「ええ」 エルサは続きを促した。
「気が変わった?」

「いいえ、」 アナはすぐに答えた。
「ただ―、」
アナは一旦静止した。
「待って、もし気が変わったって私が言ったらどうするつもりだったの?」

エルサはアナに脅すような顔をよこした。
「長い長い交渉にやっとケリがついたのに、そんなに気まぐれでいるようなら、喉を絞め殺してしまうでしょうね」
アナが半分信じてしまいそうなくらい平坦な声で、エルサはそう言った。

「わかった」
アナはエルサの前に立ち見上げると、にっこりと笑った。
「私のしたいことを勝手に考えて、何も言わずに何かをしでかすつもりはないでしょうね?」

「これって次の誕生日やクリスマスプレゼントの詮索?小賢しいずるなの?」
エルサは眉を釣り上げたまま言った。

アナは呆れたように目をぐるりと回しそうになったが、なんとかエルサの方向に留めた。
「わかってるでしょう」

我慢することが出来なかったので、エルサは手を持ちあげて、アナの髪をなでおろした。
「一番初めにあなたに話すって約束する」 彼女は誓った。
「なんでも、あなたには知る権利があるもの」

「わかった、」 アナは繰り返した。
「また手袋をしてないのね」

エルサは微笑んでからアナの髪を整え終えた。アナは元通り人前に出られる姿になった。
「一通り考えてみたの。あなたも納得するくらい。私の考える結婚生活を、ね」

「あら。教えて?」

エルサはこれをどう伝えたらいいか考えて、思い浮かぶものすべてを却下している自分がいるのに気づいた。もしかしたら、言葉だけじゃ足りないのかもしれない。
エルサは言葉を使うのが得意で、以前は雄弁だとさえ評された。しかし、彼女は詩人ではない。目の前に立つ、身なりを少し乱したアナに見上げられながら、時に言語は全く不十分になり得るのだと、エルサはそう確信した。

スケッチブックが絨毯の上に軽い音を立てて落ちた。彼女はアナに手を伸ばして、アナの顎の上に手のひらを添え、親指で耳をなぞった。
エルサが屈み始めたころ、アナはすでに彼女に向かって体を伸ばしていた。楽な体勢を確保しようと頭を傾けると、エルサの腕はアナの背中の上に回されて、自分に引き寄せた。
最初に触れた場所には鋭い熱が走ったが、それに呑まれないようにするには十分な学ぶ機会を経験していた。

身体を離した時、アナは静かに息を吐いた。彼女の指はエルサのなだらかな肩にかけられていて、手のひらはエルサのジャケットの繊維に押し当てられていた。
エルサから始めたこのキスは、とても気分が良かった。執拗なものではなかったが、それでも心をかき乱すものだった。彼女は熱が体中に染み渡っていき、お腹の底がぐるぐると重くなるのが分かった。特に、二人の腰がどんなに押しつけられているかには。
彼女は試すように唇を舐めて、頬の上にかかるエルサの呼吸のリズムから、そう感じているのは自分だけでないことを知った。

「答えになった?」
エルサは囁いた。二人の顔はすぐ側にあったが、彼女の目はまだ閉じたままだった。それはまた別の防衛機能だった。二人でキスをするとなれば、何が起きるか分かったものではなかった。

アナの頭のなかはもやがかかっていた。
「分からない、」 とろんとした目で言った。
「もう一度言ったほうがいいのかも。私が要領わるいの、しってるでしょう」

エルサは微笑んで、自分の主張を繰り返そうと、また屈みこんだ。アナは熱意を持ってそれに応えて、エルサの首の周りに腕を回す。
再びアナが勇敢に反応し、舌の先を使って、より深いキスにエルサを誘った。それは完璧に甘美でエロチックで、エルサの頭をクラクラさせた。
女王の宙に上げられた手は下ろされて、アナのボタンの留められていないコートの中へ忍び込み、わき腹を撫でた。探る指に優しくリネンが触れる。
アナは身を震わせて、より執拗にエルサに身体を押しつけた―何を求めてかはわからない、それでも、彼女はもっと求めていた。アナは喉の奥で小さく声をあげた。乞いのようななにかを。そして、エルサが理解してくれることを願った。
ここまで見た
エルサは音もない絶望感にうめき声をあげた―アナの出すこの声は愛撫のように彼女の心をかき立てて、キスが激しくなっていくにつれて、お腹の辺りを締め付けた。
全感覚の焦点がアナに合わさるさなか、彼女の頭のなかは完全に真っ白になった。
これはあまりにいっぱい過ぎた。二人が息をするために身体を離したときエルサは、アナを導こうとする動物的欲望以外になにも持ち合わせていなかった。
彼女はアナのコートの下にもう一方の手を滑り込ませてシャツを握り、キュロットから引き抜いた。

アナは小さく息をのんで、まわした腕をゆるめた。
エルサは警戒をするように止まって、もしかしたらやりすぎたかもしれないと心配をしてから目の当たりにしたのは、彼女を"助けよう"としているアナだった。

「ああ神様」
コートが床の上に落ちると、エルサがぼうっとしたまま言った。
アナのシャツはまだ半ば引き出されたような状態だった。キュロットがきつすぎるせいだろう。
「私、教会にも行かないのに」
どうしてそう言わなくてはいけないように感じたのか分からないまま、そう言った。

「私もよ」
アナはかすれた声で答えた。
一瞬のうちに彼女はエルサの前に、女王の顎の下に唇を押し当てていた。

「あなたも、」
彼女はエルサがまだ身に着けている執務用のジャケットを引っ張りながら要請した。
「不平等でしょ」

不平等だって?
私たちはゲームでもしているのだろうか?
それならエルサは負けてしまうだろう。なぜなら、彼女は命令に背くつもりはなかったからだ。
彼女は邪魔をしている布を引っ張り脱いで、スリーブのない青いドレスの下にある白いブラウスを晒した。
アナは笑っていた。彼女の目の色は暗く、なまめかしい。彼女はエルサを後ろに押し続けて、膝の裏がベッドに当たると、悲鳴とともに背中から倒れこんだ。

アナはエルサの足のすぐ側に片膝をついて、その反対側にもう一方の足を放った。
アナが私の上で跨っている。
エルサは息を呑んだ―アナは彼女の上から見下ろしていて、ベッドの上で私の上に跨っている。
アナが屈みこむあいだエルサは見ていることしかできなかった。マットレスの上で一本の手で身体を支えたまま、エルサがほかになにかを考えられる前に、キスをした。

彼女はキスを和らげようと動くことができなかった。アナはひとつひとつのキスを深く、探るようなものにして、明らかに、自分に優勢な位置関係に気を留めるつもりもないようだった。
エルサは力なくなき声をあげて、アナのシャツをキュロットから完全に引き抜こうと手を持ち上げて、アナの横腹に両手を押しつけた。

アナはまた鋭く息を吸って、のけぞった。
彼女はエルサの首に顔をうずめた。呼吸は浅く、速まっている。

「どう?」
エルサは囁いて両手を滑らせて、指を背骨のくぼみに沿って動かした。

アナは言葉なく頷いて、エルサの喉にキスを落とし始めた。時おり少し舐めたり噛んだりして、それは女王の体中の骨を溶かしてしまうようだった。
エルサは無理やり意識をアナの肌に向けて、なんとか気をそらそうとした。
ああ。アナの肌だ。
彼女はアナの素肌に触れていて、これが現実に起きているという事実は彼女の手を震えさせて、それは抑えこもうとしても無駄だった。
アナはとてもなめらかで、汗で少しじっとりとしていたが、エルサは気に留めなかった―その湿り気はどうしてだか、これが本当に起きているのだと、より一層肯定してくれているようだった。
これは熱に浮かされた白昼夢ではないのだと、言っているようだった。

それから彼女が思い出したのは、もし両手を上に向かって動かし続けてアナの肋骨を超えれば、行き着く先にあるのは胸だということだった。
アナの胸だ。
熱が彼女の両手に広がり強張って、アナの肌の上に軽く爪を立て、それはアナに身震いをさせた。

「エルサ、」
アナが喘いだ。
それが彼女に言える全てだった。いや、頭のなかにあるすべてだった―エルサの名前がただ繰り返し繰り返し現れる。
熱すぎて、彼女の身体は暑くてたまらず、エルサが彼女の下で絶え間なく身動ぎをしているその様子では、決して彼女は一人ぼっちではなかった。
アナの膝はがくがくとして、今の状態のまま身体を持ち上げ続けることが難しかった。
エルサの手は身体の上でほんのすこし触れているだけだった。触れている場所に反してそれは暖かく、驚くほど刺激的だった。
ただのわき腹と背中がこんなにも反応を引き起こすとは、思ったこともなかった。
ここまで見た
彼女がエルサを見下そうと頭をあげると、エルサのその姿に、心からの称賛とともにため息をつきそうになった―彼女の色素の薄い髪の毛と編みこんだ髪はベッドカバーの上に広がっていて、彼女の顔色は可愛らしく赤らんでいる。
唇は開かれていて、数々キスから少し腫れているようだ。これをやったのはアナ以外の誰でもなくて、自分の手仕事に充足感を覚えた。
見つめ合う間の短い猶予期間、二人は息を整えようとしていた。あまりにもことが早く進みすぎて、思っていたよりも先に進みすぎていた。
それは無言の、ここでやめようという合意だった。エルサの手はアナの腰の上に降りて、親指で皮越しに尾てい骨の上をなぞった。それからもっと下へ降り、太ももの上で指を曲げる。

「本当、これすごく似合ってる」
エルサはなにも考えずに言った。彼女は自分が言葉を話せることに心地の良い驚きをおぼえた。
「でも、人前では着ないで」

アナは笑った。
「不適切だから?あなたももうやったでしょう―男の人の服を公共の場で着てたじゃない」

「面白いこと言うわね」
アナの足を軽くつねって自分の主張を強調しながら言った。
「もし乗馬をしたければ片鞍で乗ることね。それか馬車」

「うん」
エルサは質問に答えていなかったが、エルサがなぜ他人に彼女のキュロットができるかぎり見てほしくないか、なんとなく理解していた。
よって、しばらくは気にしないことにした。

「出かけてるとき、じっくり考えてみたの。その…」
アナはそのことをこんなにも早くにエルサに尋ねるつもりはなかったが、心温まる、心地の良い空気がいいタイミングだと感じさせてくれた。
「あなたが楽しくなれることのこと」

「私が楽しくなること?」
エルサ質問するような顔で言った。

彼女は頷いた。
「もしかしたら、あなたが好きなことは変わったかもしれない、って思ったの。四年もあったし」

「ああ」 エルサは微笑んだ。
「あなたのお母様がそんなようなことを言ってたわ。お互いのことをもっと知りあうことが、その…『結婚の楽しみ』だって。彼女の言葉よ、私のじゃなくて」

「それで母さんが私に変な顔したのね。厩舎からここに向かう途中で会って、あなたの居場所を教えてくれたの」
アナは説明した。それ以上膝をついていたくなくなったのと、座り込んでエルサとその…体勢で話をしたくなくて、アナはベッドの上に横になった。頭はエルサの肩に載せて。
エルサは好意的にアナの背中に手を回した。

「あなたのお母さんといえば…」
エルサは頭を少し浮かせて、声は尻すぼみになった。
「扉が開いてるわ」
彼女は少しあきれたように、つぶやいた。

「それが?」

「それで、誰かがやってきて見られるかも」
エルサは少し語気を荒げて言った。それでも、体を起こそうとすることはなかった。アナとともに背中いっぱいに仰向けになっているのは気持ちがよかった。
「召使いに見られても気にしないの?」

「そういうわけじゃないけど、」
アナはエルサの首元に顔をうずめながら言った。彼女はエルサの匂いのに包まれるのが好きだった。エルサのお腹に腕を回して、もっと近くに引き寄せた。
「結婚した人間がなにをするか、彼らは知ってるでしょう。それに、同じように結婚してる人たちだっているんだから」

エルサは信じられない、といったような声を漏らして、アナを見下ろした。
「私たち、その話をしたほうがいいと思う?」

「うん?なにを?」

「初夜のこと」
エルサが言った。
「私たちがお互いにひどく惹かれあってることを踏まえてね、」
ここまで見た
それ以上に、エルサがアナのことを愛していて、この女王にとってそれはただの身体的行為ではないということを、アナは知っていた。
そしてアナも自分に正直になれば、彼女にとってもそれはただの身体的行為じゃなかった。

「したいけど、」
アナは口ごもった。エルサが鋭く息を吸った。その反応から感じ取ることができるものは膨大だった。
「でも、―今は駄目。でも、そのうち、あなたと。あなたはどう?」

エルサは目を閉じて、急に大反乱を始める度胸を無視しようとした。
「私も同じ」
彼女は優しく言った。
「こんなにすぐは、だめ」

「これにはアポイントメントをとったりはしないでしょうね?」
アナは言いながら笑みを大きくして、尋ねた。
「出席をするよう求めくる使いがやってくるのを、期待すればいいのかしら?」

エルサはつっかえたような音をたてた。
「そんなわけないでしょう!」
彼女は頬を赤くしながら思わず声をあげた。
「そんなこと、絶対にしない!」

アナはすでに肘を立てて体を浮かせて、エルサを黙らせようとキスをしようとしていた。
「しーっ。本気で言ったわけないでしょう」

「そんなこと、しない」
エルサは明らかに怒ったような風でつぶやいたが、彼女の怒りはキスによって宥められた。彼女はアナの前髪を目からよけるように撫でて、指を頬に沿って滑らせた。
「率直に話してもいい?」

「どうぞ」

「私…どう進めていけばいいかわからないの…これを」
エルサはどこか申し訳なさそうに言った。まるでそれが落ち度だとでもいうように。
「あなたが初めてなの―すべてにおいて、はじめてなのよ、アナ。私はあまり社交的でなかったし、もしあなたとの交際期間を事前に作れたとしても…どうすればいいのか分からなかったと思う」
エルサは悲しそうに笑った。
「ごめんなさい」

アナは首をふった。
「ううん、謝ることなんてない。ただ…流れに任せましょう?その、ええっと。ムードがいい時に?」

「ムードなんて、私たちにしてみればいつだっていいように思えるけど」
皮肉っぽい笑みを作りながら、エルサは言った。
「アナ、私たちは今、私の古い部屋にいるの。昼の、真っ只中に」
彼女は少し恐れおののいたような顔をして、二人の分別のなさを目撃する人間いるとでもいうように部屋を見回した。

「まあ、服は着てるから」
アナは指摘した。彼女のシャツはキュロットから引き抜かれていて、少し皺だらけになっていることはわざと無視をして。もしエルサの吊り上った眉がなにかを示しているのだとすれば、彼女もまったく同じことを考えているのだろう。

「アナ、私は…これ以上台無しにしたくないの。あなたの意見は私にとって本当に大事なの」

「これを進めるのに、そこに正しいやり方も間違ったやり方もないと思うわ、エルサ、」
アナはせめて努力をしようとした。アナはエルサがやったこと以上に経験がなく、なにをどうすればいいかなどということは少しも分からなかった。
「初夜を完了させることって、そんなすべてを変えてしまうの?」

エルサはしかめ面をした。
「ねえ、私その言葉が嫌いになってきたわ」

「え?結婚の"完了"が?じゃあ、なにがいいと思うの?」
アナは笑いながら尋ねた。
「親密な関係?セックス?愛する?かんつ―」
ここまで見た
「ありがとう、」
エルサはあてつけのように睨んで、で中断させた。
「助けてくれようとしてくれるのはありがたいけど、そんなリストはいらないから」

「私は『愛する』が好きかしら」
アナはブロンドの髪で遊ぼうと、手を下に伸ばした。
「私もあなたが知っていること以上には知らないわ。誰もその話をしなかったもの。だから…準備ができたらそう言いましょう?」

女王はアナを観察した。
「本当に?」

「あなたは?」

エルサは息を吐いた。
「私はただ―、それってそんな簡単なの?」
彼女は疑うように言った。

アナは彼女に向かってぼんやりと笑いかけた。
「エルサ。あなたって本当、なんでも難しくするのが好きなのね。きっと簡単なものだってあるでしょう」

女王は目の上に手を覆って、皮肉げな笑いをあげた。
「わかった。じゃあ、あなたの言葉を信じるわ。あなたの偉大な見識に免じて折れるから」

「やっとあなたが私の見方がわかってよかった」
アナは調子に乗って気取った風に言った。結婚式の夜、エルサに言ったのと全く同じ調子だった。
「あなたに何が必要か分かるって、言ったでしょう」

エルサは指の隙間から彼女のことを見た。
「あなたまで私のことを徹底的にいじめるの?両親のコピーにでもなるつもり?」

アナは心からおぞましく思って見を震わせた。
「ああ、そうならないといいんだけど。あの二人が楽しくないって意味じゃなくて。だって私の"両親"だもの」
彼女は語末の単語を、声を抑えて言った。

エルサは笑ってから、すぐに気を取り直した。
「あなたの両親っていうと、」 彼女は話始めた。
「昨晩あなたのお母様が私の母さんのことを話した、って言ったでしょう。話聞きたい?」

「ああ。えっと、もしあなたが話したいのなら」
アナはエルサの両親の話題についてはまだ慎重に考えていた。それでも、エルサが彼らのことを話したいと思うのは、良いことのはずだ。

「話したい、」 エルサが言った。
「でも今は駄目。今夜にしましょう。長い話なの」

「分かった。待って、私たちってこれからも別々の部屋で寝るの?」
これまで起きたことのあと、そんなことがあれば。アナは想像して、憤慨したような言い方をせざるをえなかった

エルサはアナにしっかり向きあおうと身体の向きを変えて、曲げた腕に頭をのせた。
「別々がいい?」 とても平坦な声だった。

アナは顔をしかめた。
「私がどう思ってるか、分かるでしょう」

ふにゃりとした女王の笑みに、アナは迎え入れられた。
「毎晩隣に暖かい体があるのは構わないわ」
彼女はからかった。
「だって、それって友達でもできることでしょう?」

どうしてだか、最後の言葉はアナの胸を締め付けた。エルサは自分たち二人が友達でいればいいと思っているのだろうか?アナが一緒に居さえすれば?
そもそもエルサがどう思っているのか、教えてくれるつもりはあるのだろうか?エルサはそういう気持ちを、返してもらいたいと思わないのだろうか?
ここまで見た
「アナ?」
エルサは心配しているようだった。

「ごめんなさい、」
アナは反射的に言った。
黙っている時間が長すぎた。
「少し考え事をしてただけ」

「そんなに傷付いた?」
エルサは同じような心配した声のトーンで言った。

アナはまだエルサの気持ちについて考えこんでいて、エルサの声が身にしみるまで少し時間がかかった。からかわれているのだと気づいた時、アナは呆然とエルサを見た。エルサは子供のように満悦な笑みを浮かべていた。

「エルサ!」
アナは大声で言って、目の前の女王に飛びついた。
「意地悪すぎる!あなた絶対、私をからかうの面白がってるでしょう!」
彼女はエルサに取っ組みかかって、肋骨のあたりに指を押し込んだ。エルサは声をあげて笑って、掴みかかる腕を払おうとした。

「アナ!やめて、それずるだから!」
特にくすぐりに弱い場所を攻められて、礼儀正しさからかけ離れたひどい不格好さで鼻を鳴らしそうになった。

「当然の報いよ!ああ、聞いた?『そんなに傷付いた?』って」
アナは自分なりの最高に気取った声で真似た。
「私はプリンセスコンソート、最上の敬意を受けるに値するのよ!あなたは女王であれば無視してもいいて思ってるんでしょう」
彼女は抗議した。

エルサは寝転がってまた腹を抱えて笑い始めて、アナがまた彼女の上に乗っていた。
「あなたが単純すぎるのよ」
彼女はクスクス笑う。
ああ。エルサがクスクス笑っていて、そしてそれをやってのけたのはまた、アナだった。
「自ら絶好のチャンスが目の前にやってきて、堪えられるわけがないでしょう―」

アナはそれに鼻を鳴らしてから、すぐに静かになってエルサの腰の上に座り直した。エルサは素敵なくらい乱れた格好だった。髪はぐちゃぐちゃで、暖かい表情をしている。

「もし一緒に寝るのなら、私の部屋を使いましょう」
アナは偉そうな態度で宣言した。
「あなたの部屋は寒すぎるもの。私の部屋のほうがずっと良いしね。それに、『女王の間』って名前だし」

「アナ、説得する必要はないから。それにもし私の部屋がこんなに飾り気がないのか不思議に思ってるのなら言うと、私の物はまだここに置いてあるからなの。見て分かるように」

アナは周りを驚いたように見渡した。
「えっ、気付かなかったわ」 彼女は恥ずかしげに言った。
「全部そのままなのね。まあ、私の部屋に持っていけばいいわ。それか私の部屋の物を使えばいいし」

そうしてそんなふうに、すべてが丸く収まった。
エルサは体を起こすとアナに軽いキスをした。
彼女はまた微笑んでいた。だって、アナの側にいるときそうしないことの方が無理だった。

「わかった、」
エルサが賛同する。
「ここの物をすべてあなたの部屋に動かして、今夜またお話ができるわ。でも今は…お腹はすいてない?遅めのランチにしてもいいけど」

アナは首を振った。
「ううん、すいてない。今日はなにをしたい?」

エルサは床にあるスケッチブックをちらりと見て、自分がなにをしたいか確信した。

「あなたに見せたいものがあるの」

Ch.15 おわり
ここまで見た
  • 322
  • AFA
  • 2015/10/15(木) 11:06:45.08
支援ありがとうございました〜
いつもありがとうございます。
ここまで見た
  • 323
  •  
  • 2015/10/15(木) 22:23:02.87
思いが通じ合ってからの2人がホント好き。寸止めでこんなにドキドキするならその後はどうなってしまうの…
ここまで見た
  • 324
  •  
  • 2015/10/16(金) 01:08:31.94
エルサとアナが二人っきりになると普通の日常生活がいきなりいやらしくなるのにキスしかしてないとか…
ここまで見た
  • 325
  •  
  • 2015/10/22(木) 20:30:45.78
ASiSもAFAも短編のLie to Meも最高でした

Lie to Me
小悪魔アナにうわああああってなったかと思えば
不誠実というかより酷かったのは実は姉のほうだったってのがまた…
例の体位って文で表現するの難しいのにしっかりねっとりエロかったのも凄い
そしてやっぱり真っ直ぐ決めてくるアナがカッコ良かった
「私は生まれた時から貴女のものだもの」の破壊力…こんなん妹専用武器やん

ASiS
海外二次絵で見たあのシーンが遂に…感無量
海外FanFicの凄いところってこれでもかって位順序丁寧に踏んで
焦らして焦らして何十章もかけてやっと想いの交差したキスシーンを描くという途方も無さ
それだけに読んでるこっちも嬉しさのでかさが半端ない
ほんとにあの週末を越えてから二人共印象ガラッと変わったもんなぁ
ちゃんと女性と女性が向き合ってるって感じ

AFA
色々片付いて執務室でニヤニヤが止まらない陛下にニヤニヤw
あまりに幸せそうで今後不幸が起こるんじゃないかとちょっと怖い
がっついた後に放心、「あぁ神様、ほにゃらら」→相手もなんか言ってこっちの服剥いてくる
→自分でガッと脱いでまたがっつきながらベッドダイブ、の流れ洋画でよく見るw
素肌のお胸タッチ直前に終わったのにまるでセクスシーンを読んだ後のようなドキドキ感だった
今後そういうシーンが有るかは分からないけどAFAのエロさで本番読んだら心臓発作起こしそうだわ
ここまで見た
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  •  
  • 2015/11/04(水) 00:55:56.18
そういえばYAはどうなったのかな?
ここまで見た
  • 327
  •  
  • 2015/11/05(木) 09:10:48.78
http://dvdgoods10.blog.fc2.com/
ここまで見た
  • 328
  •  
  • 2015/11/06(金) 09:47:29.90
止まっちゃったのかな…?

>>327 スパム
ここまで見た
  • 329
  •  
  • 2015/11/07(土) 07:17:14.86
そうか…まとめサイトで前の話読もうと思ったんだけど1話しか更新されてないんだよね。好きだからちと残念…
ここまで見た
  • 330
  •  
  • 2015/11/08(日) 01:19:43.14
まとめにアナサマも載ってたよね?消されちゃったのかな…
ここまで見た
  • 331
  •  
  • 2015/11/08(日) 18:24:38.77
まとめサイトにアナサマあったっけ?前に見た時はなかった記憶。
探し方が悪かったのかな。
ここまで見た
  • 332
  •  
  • 2015/11/08(日) 22:19:06.38
アナ様は自分も見たことないな。読み返したい時まとめサイトあるからすごくありがたい
他の作品も是非…とは思うけど都合もあるので無理せず続けてほしい
ここまで見た
  • 333
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  • 2015/11/08(日) 22:49:01.66
アナ様は前に「お楽しみ」にとかレスがあった気がするけど、その後音沙汰が…
訳も読みやすくて面白かったから続きもわくわくしてたんだが、色々事情もあるだろうしね
仕方ないね
ここまで見た
  • 334
  •  
  • 2015/11/09(月) 01:05:51.15
まとめて読んだ気がしたけどスレ遡って読んだのかな
それはそうと久々にr9k覗いたら一つ一つにタイトル画像が付いてて嬉しい驚き!描いた人も付けてくれた人もGJ!
ここまで見た
  • 335
  •  
  • 2015/11/10(火) 23:18:22.40
まとめ人です

まとめサイトは基本的に訳してる方本人と連絡がつくものをまとめています。

アナサマはまとめたことはないです。訳者さんとも連絡がつかず、申し訳ありません。
YAに関しては確認します。

>>334 実はAFAに挿絵つきのものも2チャプターほどあります。ぜひ見てください!
ここまで見た
  • 336
  •  
  • 2015/11/12(木) 14:17:06.01
本気の割り切り女子大生 まじかわいい
http://yvfnsrepavb.biz/PDDR/FMPLJSGKEZEYHMTIDTIEUsERDDRDEPGoZMRV
ここまで見た
  • 337
  •  
  • 2015/11/15(日) 20:37:25.51
>>335
いつもありがとうございます!
ここまで見た
  • 338
  •  
  • 2015/11/15(日) 23:58:32.38
>>335
遅くなりましたがご丁寧にありがとうございました!
まとめるだけじゃなく許可とったりデザイン考えたりとなんて大変なんだ…読むだけで申し訳ない

AFAの挿し絵探しがてら一から読み返したけど読み応えありすぎて休みが終わっていた
他のもそうだけどこれを翻訳するんだから愛がないとできないわ…本当にいつもありがとうございます!
ここまで見た
  • 339
  •  
  • 2015/11/23(月) 02:07:43.26
いい夫婦の日過ぎたけど夫婦SS続き投下します。
ほぼ半年ぶりなので覚えてない人多いとおもいますが...

前回の話
http://aoi.bbspink.com/test/read.cgi/bbbb/1424048604/136-142

第十章 女王の義務、母の重責

夕食時のアストリッドは不気味なほど静かに物思いに耽っていた。
黙りこくったままスープをすくうが、ほとんど口に運ぶ前にボウルに滴り落ちてしまっている。
もう片方の腕でテーブルに肘をついて顎の下に押し込まれた拳が無作法な態度を完成させていた。
アナとエルサはテーブルを挟んで互いに目配せしアストリッドらしくない振る舞いを見つめた。
「何とかして!」とアナが目で訴えると、「これは私の分野じゃない―――貴方が話して!」とエルサが返す。

アストリッドが重い落胆のため息を吐いたとき、二人の腹は決まった。
不機嫌そうな様子な彼女がいっそう深く椅子に沈み込んでいるように見えたからだ。
まるで全ての元気と喜びが骨の外に吸い出されてしまったかのようだった。
彼女の生き生きとした矢車草のような目は、いつものように覇気がない。

「アストリッド…大丈夫?」
エルサがためらいがちに尋ね、妻に不安げな視線を送った。
アナは彼女を力づけるように頷いて見せ、手のジェスチャーで続けるよう促す。
「スープに手を付けていないのに気付いていたわ。」

「お腹がすいてないの。」
少女が不機嫌に言った。
その声のトーンがとても無愛想な上にあまりに不機嫌だったため、女王は狼狽えた。

エルサが目をまばたきさせる。
アストリッドが顔をしかめてテーブルクロスをじっと見下ろしているのを見つめて、エルサは少し力を抜いた。
「そう…なの?」
そんなセリフじゃなくて他にもっと聞くべきことがあるだろう。
アナは無能なエルサにイラついて大きく見開いた目をギョロつかせて無言のプレッシャーを与えた。

「アストリッドちゃん、お母様に向かってそんな口の利き方がある?」
アナはきっぱり言って、睨まれて硬くなる子どもに目を細めた。
アストリッドは彼らを見なかった。
「だから?」
アナが眉をねじる。
「お嬢さん、私の質問に答えないの?」

「放っておいてよ!」
アストリッドが突然激昂して荒々しく叫んだ。
思い知らしめるかのように強くテーブルを手で叩いて椅子から立ち上がると、ポニーテールにした髪が無造作に揺れる。

エルサが弾かれたように立ち上がる。そして部屋から飛び出してアストリッドを追おうとした―――彼女の椅子が大理石の床にぶつかって不快な音を立てた。
あの子を叱るために?あの子を安心させるために?
自分の知っている普段のアストリッドとは違う痛々しい様子を見て彼女の突然の苦しみを癒してやりたかったが、エルサにはどうすれば良いのか分からなかった。
エルサの無心の行動はアナの手が彼女の手首を掴んで後ろへ引いたことで止まった。
給仕係が自主的に女王の椅子を起こし、エルサは目をアストリッドが飛び出していった遠くのドアに留めながらも呆然とそこに座った。

「確かに変だったわ、」
エルサが妻の方を振り返って小声で呟く。

アナが目を回す。
「あの子は大げさなのよ。」
「貴方の方の血筋のせいね、間違いなく。」
ここまで見た
アナが声高に笑ってエルサの胸に指を突き立てた。
「私の19歳の誕生日に厚かましくもダンスを申し込んできた王子か何かがいて、小さな嵐を引き起こしたのはどこの誰だったかしら?」

エルサは記憶に暗く沈んで、まるで臭いものを嗅いだかのように鼻に皺を寄せた。
サザンアイルズのハンス…エルサはその王子をよく覚えていた。
あいつは王女がすでに公式に婚約を発表しているにも関わらず、戴冠式の祝宴の間ずっとアナの周りをうろうろしていたのだ。

「あの時点で私達が求愛していたことは衆知の事実だったのよ、」
エルサは声のトーンを一定に努めて穏やかに言う。
彼女の感情的な兆候はアナに自己満足の嘲笑をもたらした。

「その上、貴方がベルヴェデーレ伯と踊ったことをよーく覚えているわ…」
エルサが記憶に落ち込むのを見るにつけてアナがニヤつく。
あのダンスは儀礼的に引き受けに過ぎない…
「あら、女王様。」
妻が満足気な様子を見せる。
「降参なさいますか?」

エルサは笑って妻に長くゆっくりとキスをし、それから離れて小さく呟いた。
「引き分けだと認めるわ。」
「引き分けですって?」
アナの声はキスにぼうっとしていたせいで、エルサの答えが期待外れだった割に強く出られなかった。

「ええ、」
女王は頷いて歯を見せてにっこり笑い、アナを抑えこもうとしたが無駄だった。
「誰だったかしら?ベルヴェデーレ伯を転ばせるために足を突っ込んで怪我をさせた私の最愛の人は?アレンデール女王とはダンスが踊れないですって?そういう時だけ快く手助けを申し出るウィンターランドの王女様のせいでね?」

「貴方が何のことを言っているのかさっぱり分からないわ。」
アナがいたずらっぽい笑顔で答える。可愛いらしく上がった頬がそばかすを引き立たせ、瞳が煌めく。
エルサはまた彼女にキスしたくて堪らなくなった。そしてキスをする。

「私は娘がどうしちゃったのか様子を見に行くわ、」
アナが優しくついばむようなキスの合間に呟いた。

喉の奥を小さく鳴らしてエルサがゆっくり身体を引く。まだ足りないと言わんばかりに目は半分まぶたが下りている。
「もちろん。」
ぼうっとした状態から自分を奮い立たせると、給仕係にテーブルを片付けるように指示をした。
「アストリッドがこんな行動を起こすなんて、さぞかし重大な事なのでしょう。」

アナは立ち上がってエルサの赤らんだ頬に一度きりのキスを落とした。女王は満足げに目を閉じて朝刊を掴む。
「きっとそうでしょうね。」
王妃はすまし顔でそう言うと部屋を後にした。

アナは肖像画の部屋でアストリッドを見つけた。
アストリッドはアガーテ女王の肖像画の前でうずくまっていた。彼女は間違いなくこの地を飾った者の中で最も論争を呼んだ女王だ。エルサがそう言っていた。
エルサは疑いようもなくアガーテ女王の遺産を誇りに思っていたから、子孫の生活ぶりについて語ることを大変楽しんでいた。
女王は肖像画の部屋の前を通るときには自らの生活や行動の見返りとして肖像画に向かって頭を下げ、最大の敬意を払って家系図の枝の一つ一つをじっくり眺めた。
アナはエルサが彼女の先祖たちが確信している呪いを打ち破りたいと焦がれているのだと思った―――モンスターにはなりたくないと。
エルサは先祖たちの望むアレンデールの繁栄のために日々休むことなく働き、先祖たちは死んでいるのにも関わらず、彼らから認められることを願っていた。

アガーテ女王はエルサの先祖の中でもっともアナのお気に入りだった。
その理由はアナとエルサ―――そして多くの人々が―――今や誰もが望んだ相手と結婚できる自由があるからだ。
アストリッドは胸の前でストッキングに包まれた膝を寄せ、その上に顎を乗せて親しみを込めてアガーテ女王を見上げていた。
視線は彼女の高い頬骨の美しい顔と緑と紫であしらわれたアレンデールのクロッカスの額を行ったり来たりしている。
ここまで見た
「アストリッド王女。」
上品な呼声が部屋に響くとアストリッドはゲルダか他の乳母が夕食での反乱を聞いて駆けつけたのだと怯えて、その場で身体の向きを変えた。
アナはそっと微笑んで近付き、アストリッドの傍に座った。そして肖像画へ視線を向ける。
「夕食のときに何が起こったのか私に教えてくれるわね?」

「嫌。」
アストリッドが組んだ腕に頭を潜り込ませてくぐもった声で言った。
その様子はちょうど2、3日前にエルサが給仕係たちを驚かせた朝食の時の木製テーブルに頭を突っ伏した姿と不気味なほど似ていた。
ときどき見せるこのような類似点は不思議なものだった。

「ねぇ、貴方がお母さんに言ったことで私は貴方をお仕置きしなといけないの、」
アナが淡々と言う。
「そこで小さくなって膝を抱えている子をね。」

アナは眉を下げてその言葉に対する少女の反応を伺った。
今までアナは意図してアストリッドに手を上げたことはなかった―――それはエルサも同じだ。
当然のことながら、アナもクリストフも子供の頃は相応の体罰を受けた経験がある。
彼らは皇太子と王女としての適正に欠けていたから、礼儀正しい友人たちの前で突如として悪ふざけをした。
つまるところ、彼らは父親から叩かれるのに十分な理由があったのだ。

その上、エルサが彼女に内密に言ったことがあった―――それはアナが子育ての経験不足に嘆いていて眠くて仕方なかったときだ。
エルサが子どもの頃、たった一度だけ父親からぶたれたときのこと。
従姉妹の誕生日を祝う行事に参加するために訪れたコロナで、混雑する市場でわざと両親からはぐれたことへの罰だった。
エルサの父は唐突かつ迅速にコロナ城を封鎖し、全員を集めて安全であることを確認した。
しかし殴ったことで彼は罪悪感に病み、その後エルサが殴られることはなかった。
それ故にアナとエルサの両名は手を上げて脅かしたり怖がらせることはしないで意見を一致させた(この命令にエルサの声は涙で震え、手は寝具を握り締めていた)。

アガーテ女王が気付くことはないだろうが、アストリッドは緊張で体を強張らせながらも視線は頑なに彼女を見つめていた。

「まるまる一週間は馬に乗れないのは仕方ないわね?ああ、それにデザートもないでしょうね?」
アストリッドは明らかに食べられないであろうシェフの作る美味しいチョコレートフォンダンを思い浮かべて眉をひそめていた。その様子を見たアナは心の中で勝利の拳を突き上げた。
「そうよ、1週間はデザートのことは忘れるの。」

「ごめんなさい、」
少女がようやく謝罪を口に出した。

「いい子ね!」
アナはアストリッドの強張った体に腕を伸ばしてブロンドの少女を暖かく抱きしめた。
アストリッドはすぐに母親の抱擁に身を委ねる。そして、力をこめてしっかり捕まえる。
アナがアストリッドの頭にキスをする。
「何があったのか私に話して?話してくれないと私は貴女を助けられないわ。」

アストリッドは自分の中で葛藤があるようだった。
下唇を噛んで苛立ち紛れに拳を握るためにアナを掴んでいた手を外す。
「恐い夢を見たの。」
小さな声でそう告げた。
ここまで見た
「何の?」
アナが穏やかに問いかける。
労るようにゆっくり指でアストリッドの前髪を梳いた。

「お話の、」
囁くアストリッドの目からは涙が溢れそうだった。
彼女はエルサを失う夢を見たのだ。
「夢の中で貴女はお母様を殺したわ。お話に出てきた剣で。」

「まあ。」

アナは唖然としたが、ともあれ理由が分かったことに肩を下げた。
それは仔馬事件の再来だった。エルサは正しかったのだ。
彼女が成長して事実とフィクションを判別できるようになるまで話すのは待つべきだったのだ。

「ママが殺さなかったのは知っているわ、」
母の表情の変化に気付いて、アストリッドが慌てて付け加える。
「馬鹿げた悪夢だったの。理由もなく動揺してごめんなさい、ママ。」

「何も心配はいらないわ、アストリッド。」
アナは少し悲しげに答えた。
「たぶん今のところでお話は止めた方がいいわね…」

「いいえ!」
アストリッドが大声で言う。
「いいえ、ママ!私はお母さんのお話を聞くのが好きなの…」
アナの視線の中で少女は項垂れていた。
「お母様は今までにないくらいたくさんの時間を私と過ごしているもの。」
自分の胸に頭を傾けたアストリッドの顎はとても小さく弱々しく見えた。
娘の姿にアナの心臓は張り裂けそうだった。

「アストリッド…」
苦しいほど強く少女を抱きしめる。

思いやりが無い、愛情がないというわけではない―――だが、それでもなお遠い―――エルサが距離のある母親であることは事実だった。
アナはエルサのそうした緊張感を子供の躾に利用した。
愛情と気遣いを惜しみなく与えることにエルサは慣れていなかった。
加えてエルサ自身の魔力が彼女の心に悩みの種を増やしていた。

エルサ自身の躾に対する恐怖を取り除くことは困難だったが、時折ぎこちなく娘の人生に介入を試みるにつけてそれは価値あるものだった。
それでも、エルサが家族でゆっくりと話をするために時間を割いて談話室で過ごす夜は王女が膝に乗ることを許可され、アストリッドはいつも興奮で震えた。彼女は愛情に飢えていたようだ。

「お母様はあなたをとても愛しているわ、」アナは強く言い聞かせた。
「あなたがこの世にやって来たとき、彼女はこの上なく誇りに思ったわ。彼女はあなたの近くに居ること以外何も望んでいないのよ、アストリッド。」

「それならなぜお母様はいつも忙しいの?」
少女がしゃくりあげると目に溜まった涙が頬を伝って流れた。
細い二本の腕を母親の首に回して痛いほどに抱きしめる。
アナは自分の胸に娘を強く抱いた。

肖像画の部屋の床の上でアナは少女を穏やかになだめようとした。
アストリッドの叫び声がカンバスに跳ね返って反響する。
薄暗い部屋の中で先代の王たちが彼らの幼い後継者を無言で夜通し見守る―――恐らく光の加減であろう、それは皆がアストリッドに同情して見下ろしているようだった。

「アレンデールの女王にはとても大きな責任があるのよ。だからとてもたくさんの時間が必要なの。
昨日のピクニックの後も、エルサは緊急会議のために何人かの政治顧問に会わなければならなかったようにね。彼女は行きたくなかったけど、でも行く必要があるの。
決してあなたと一緒に居たくないからじゃないわ。お母様は本当にとても忙しいの。それにあなたも知っている通り、魔法の力であなたを傷つけないかと神経質になっているわ。今ははるかに良くなったけれど。」
ここまで見た
アストリッドは涙で濡れてしまった母の軟らかな首元に頷いた。
エルサの手はもっと心地よかった。アストリッドが病気のときその手に抱きしめられると良くなり、アストリッドが眠りたくないよくずったときは彼女をくすぐった。
ここまで発展するのにも多くの時間を必要とした。撒いた種が芽を出して美しい花を咲かせるのを待つのと同じくらいに。

「ママ…ママは私に物語の続きを話してくれる?私聞きたいの…」
アストリッドが言葉を飲み込むと口を閉じた。彼女は言葉をどう終わらせれば良いか分からなかった。
私は何を望んでいるの?
お母様と過ごす時間をもっとほしいの?
それともお母様がそれほどまでに私を失うことを恐れるようになった原因が知りたいの?

アナはアストリッドが言葉にできないことは何でも理解するようだった。彼女は頷いて見せ、娘のブロンドの髪に鼻を擦りつけた。
「ええ。」
アナは優しく言った。
「もちろんよ。」

―――――――――

「アストリッドがどれほど動揺するか分かっていたはずよ、エルサ。」
その夜、寝室で女王がベッドの隣に落ち着いたのを待ってアナは言った。
「あの子は本当にあなたを恋しがってる。」

エルサは溜息をつくと片手で枕の位置を調整し、もう一方の手をアナの夜着に覆われた膝に押し当てた。
「分かっているわ。」

窓の外に見える空はまだ起きている。
何世紀にも渡ってそうしてきたように光がアレンデールを絡める。
それは不思議と心に安らぎを与えた。
泣く子をなだめなければならないときも、機嫌の悪い妻のせいで眠ることができない夜も、その光はいつもアナの元へやってきては慰めてくれるのだ。

「‘知ってる’ですって?それがあなたの答えの全てかしら?」
アナは羽毛布団で覆われた胸の上で腕を組み、エルサの無表情に注意深く隠された感情を読み取ろうと頭を傾ける。

エルサはあらゆる感情を覆い隠すことに腹立たしいほど才能を発揮した。
父王が彼女の魔法の力と国家に対する敬意について強迫観念的に怒鳴り散らすのを聞いていた数年の間に独学で編み出した対処法だ。
こんなときエルサは自分を何者も寄せ付けない厚い氷に変えることができた。

「何が言いたいの、アナ?」
エルサは枕を調整し終えるとアナと同じように胸の前で腕組みした。
「私は全部知っているわ。私だってあの子が居ないと寂しい。だからこそ、改善しようと努めているわ。」

それは事実だった。
アナはエルサが距離を縮めるための果敢な努力を認めなければならなかった。

「私は国王令を作るつもりよ、」
長い沈黙の後アナが言う。

エルサはマットレスに心地よく落ち着いて微笑み、手足を伸ばして後ろ手にあくびを隠した。
「今作るの?」

「そうよ。女王エルサは王女アストリッド・エール二世とより多くの時間を過ごすか、もしくは女王アナの怒りに向き合わなければならないと定め、これを本日をもって布告する!」

「唯一の、」
エルサはニヤリと笑って付け加えたると、
「もちろんです、陛下。」
そう言って従順に頭を下げ、アナを自分の体の上に強く引いた。
毎晩そうしているように王妃は進んでエルサの体の上に落ち着いた。
ここまで見た
「今夜のあなたは鬱陶しいくらい下手に出るのね。」
エルサの軟らかな首に顔を寄せたアナが指摘する。

「私が珍しくあなたに賛成したから?」
「そのとーーーり」
アナが哀れな泣き声を出した。
エルサの胸を拳で緩く叩く。エルサがその手を捉えて指を絡めた。
「いつもなら不安で堪らないカタツムリが殻に隠れるみたいに黙りこむところなのに。」

「不安で堪らないカタツムリ、」
エルサがゆっくり繰り返した。
彼女は頭を後ろに傾け、そして沈思黙考する。
「その表現は正しいかもしれないわ。」

「そう、で?」
「で?って?」

「あの子と過ごす時間を増やすの?」
エルサの鎖骨の下に手を置くと、揃えた指先に彼女の鼓動が感じられた。

「最善を尽くすわ、アナ。」

これが女王という立場ではない彼女が出した精いっぱいの答えであることをアナは分かっていた。
エルサは確かに有言実行しようとしていたのだから。
その点に関してアナはアレンデール国内のどこであろうと、例え国境でも、どこのどんな法廷であっても事実を証言する自信があった。
もちろん、ここまで来るのにアナ自身はもちろん、カイやゲルダ、それに兄から送られてきた注意深く書かれた手紙にあった甘言で籠絡など数々の協力があったのは事実だが、それでもこの変化はアナにとっては嬉しかった。

3、4年前にエルサが自分の子供にさえ触れなくなった出来事があった。
そのことはアナの心を二つに切り裂いた。アナは何とかアストリッドをエルサに近づけようと必死の努力をしたが上手くいかなかった。
極めつけにアストリッドはゲルダをお母さまと呼んだのだ。
アナはこれに激怒した。アストリッドではなく、エルサにだ。
彼女の不在が目立ち始めてから彼らの娘は最後の手段として城に仕えるスタッフのリーダーに権利の主張を頼っていた。
その結果としてエルサは絶え間なく離婚の心配をする程度であった。

無言の最後通告の下でエルサは恐怖を飲み込み、彼女の膝にちょこんと座っている二歳児は汚れた手で地図を触りまくっていた。
翌日の夜、アストリッドをベッドに押し込んだ女王が優しい笑みを浮かべながらも、毛布の枚数をああでもないこうでもないと格闘する様子をゲルダは戸口に従順に立って見守った。
「ゲルダ、毛布はこのくらいでいいかしら?もっと掛けた方がいいと思う?」
次の日曜の午後、エルサはアストリッドに庭園で絵本を読んであげたり、宮廷庭師が溺愛する鳥が巣をつくる様子を見学して長い時間を一緒に過ごした。

その時、二人の距離はとても近かった。
エルサは職務の重圧に立ち向かうのと同じくらい極限の緊張の中、細心の注意を払って少女をお風呂に入れた。王女の遊びに付き合い、プライベート用の応接室でチェスのやり方を教え、乗馬のレッスン見守るために家畜の柵の前で歩みを止めた。
そのかいあって、アナは徐々に心を和らげ、家族はふたたび絆を取り戻した。

しかし実際には、アストリッドが近くに寄るとエルサの目の中には心につきまとう恐怖の幻影が浮かび上がるのをアナは知っていた。
アストリッドのブロンドの髪の上に、まるで蝶の羽のように穏やかに置かれた手が震えていることを。
エルサの細い肩にはアレンデール王室を後世に引き継ぐ皆の期待が伸し掛かっていることを。

―――――――――

「あの子は話の残りの部分を聞きたがっているわ、エルサ。」
先祖と家族に対する義務で頭がグルグルと渦巻くエルサに向かってアナが囁く。

エルサはアナの暖かな身体の下で小さく音を立てた。それは間違いなく確かに「ええ」と聞こえた。
ここまで見た
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  • 2015/11/23(月) 02:23:00.54
10章終わりです。

消えてるけど元SSはこちら。
https://www.fanfiction.net/s/10277977/10/How-I-Met-Your-Mother

元のSSがfanfiction.netから消えているので続きが翻訳できましぇん。
ミラーサイトとかあったら誰かおしえてクレメンス..
ここまで見た
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  • 2015/11/24(火) 22:48:59.99
久々にきた!
たしかにエルサは子育てとか苦手そうだ

>>345
消えちゃったんですね、残念
ミラーはどうだろう…
ここまで見た
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  • 2015/11/24(火) 22:59:00.45
続きキター!と思ったら、なんてこったい
消えちゃったのか…残念
ここまで見た
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  • 2015/11/24(火) 23:25:30.45
お!お疲れさまです。忙しい中半年かかってもあげてくれてありがとうございます!
久しぶりで内容おぼろげだったので翻訳サイトで確認してきたけど、過去編は氷の城でエルサと再会した所で終わってた…すっごい良いところで続きが読めなくなるなんて残念すぎる(泣

今まであんまり気にしてなかったけどエルサとアスリッドの溝も結構深いんだね?てっきり不器用なパパさんレベルかと思ったけどここも色々ありそうだ

本当にどこかに続き落ちてないかな…ずっと楽しみに待ってた身としては無念じゃ…
ここまで見た
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  • 2015/11/26(木) 22:16:49.29
夫婦SS、続きは消えちゃったのか・・
残念だけど、ここまでありがとうございました!
ここまで見た
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  • 2015/12/05(土) 11:03:57.45
ほ!
ここまで見た
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  • 2015/12/05(土) 18:52:05.32
しゅー
ここまで見た
  • 352
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  • 2015/12/16(水) 20:00:17.18
>>326
YAやってた者です、長らく御無沙汰しててすみません。
海外SSに興味のある方の英語力の高さを目の当たりにしつつ
目に余る間違いとかをまとめ主さんに直していただいたりしてたら
申し訳なさが限界点を越えまして止めてしまってました(元々我侭で始めたんですけど…)

3月頃をめどに最後までやりきりたいと思ってます。
やりたい方いらっしゃいましたら代わりますので!よろしくお願いいたします。
ここまで見た
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  • 2015/12/17(木) 23:58:40.36
>>352
乙です!同じく翻訳してる身としてはその気持ち、よく分かります。
でもYAが日本語で読めるだけでも嬉しいし、あの世界観で訳してもらって、本当にありがたいですよ!贅沢なfanficの味わい方だなーと352さんの翻訳をたのしみにしてました。
時間と労力のいる作業なのであまり無理せず、苦しくならない程度に頑張るのがちょうど良いんでしょうね。
ここまで見た
  • 354
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  • 2015/12/19(土) 16:54:47.15
English関係について語り合うならおすすめ。
よかったら、「blngs」で検索してみて!
ここまで見た
https://www.fanfiction.net/s/10074149/24/A-Snowflake-in-Spring 

A Snowflake in Spring : Chapter 24
By: Celery Sticks

次の日、起きて学校へ行くのに一苦労した。
もし寝坊して外の世界を無視してしまいたい朝があったとしたら、まさにその朝だ。
アナの眠りは安らかとは程遠く、前の晩ずっと塞ぎ込んでいたせいで歴史のレポートに手がつけられなかった。
提出期限は明日だから、名前もうまく言えない外国の独裁者について夜通し書くことになるだろう。
おまけにクリストフと食料品の買出しに行って、週末に起きた事を全て話さないといけなかった。たぶん2時間はかかる事になりそうだ。

車で学校へ行く頃には一日の計画をほとんど立て終わり、その筋書きでは夜を明かすまでにベッドに辿り着くなんてことはありえそうになかった。

そんなわけで、朝からしかめ面を浮かべながらズルズルと重い足取りで校内を歩き、行く先々で投げかけられる怪訝そうな視線を無視してロッカーに向かった。

頭の中で一つずつ今日の予定を確かめて、どの教科書が必要でどれがなくてもよかったか記憶を巡らせる。
ロッカーを開けて数学のノートと英語のクラスで必要なものを取り出した。

(授業じゃまだあのドキュメント映画を見るはずよね、えっと…天文学における流星群とか何とか言ってたっけ。
誓ってもいい…あのクラスに申し込んだ時は星座について学ぶんだと思ってた。惑星の質量と重力を計算するんじゃなくて。
ハンスが二年の時にこれを取っててくれて助かった、でなきゃ絶対合格なんてできないよ)

アナは前髪を顔から吹き払って、鞄のチャックを閉めた。
(一週間おきに映画を見るようになったことがせめてもね。デルバート先生で本当によかった…もう一人の若い先生はおっかないらしいし。
アメリア何だっけ…ていうかあの人に苗字ってあったっけ?)

「よう、クリスチャン」

アナは飛び上がり、息をのんでリュックサックを抱きしめ振り返った。
顔に浮かんだ驚きは、こちらをじっと見下ろすヘラクレスを見た途端イラついた(それにたぶんほんの少し怯えた)ものに変わった。
茶褐色の髪をしたその少年は、片方の肩からリュックをぶら下げて、ポケットに両手を突っ込んでいた。
彼の表情は怒っているとも緊張しているともつかない顔で、アナが振り返った瞬間、視線を床に落とした。

アナは無言で立ち尽くし、廊下をキョロキョロと見渡した。
こちらに関心があるような人間はいないようなので、顔を上げるとヘラクレスをじっと見つめて、深く息を吸った。
背筋を伸ばし、胸を張ってその男を睨みつける。
「何が望みなの、ヘラクレス?」

彼は首の後ろを掻き、目を逸らした。
「あー…調子どうだ?」

アナは目を細めた。
一体全体どういうことだろう?
学校で抱えている問題のほとんどを占めるのがこの少年、彼と他数人のフットボール選手の連中だ。
その彼が今こうして、唐突にこちらの調子を尋ねているというのだろうか?

(超ウサンクサイ)

「もう一度言うわ、何がお望みなの、ヘラクレス?」

ヘラクレスの表情はこちらを睨みつけるものに変わったけれど、その瞳はどこか悲しげだった。
アナは片方の眉を吊り上げて、胸の前で腕を組んだ。
ヘラクレスについて知っている事はあまり多くない。今年からフットボールをやり始めたという事ぐらいで…その前に彼を見かけた覚えはほとんどない。
知っていることといえば、ステロイド剤を使っていない人間にしては(校内の選手は全員がランダムな薬物テストの対象者だった)不気味なほど筋肉質で、メグと付き合っていたということだけだ。
ここまで見た
「ガールフレンドを取り戻したい」

(ああ。そういうこと)

アナは顔をしかめた。
彼が自分に助けを求めている?
二人が友人だということさえ知らないのではないだろうか?
何しろあれからずっと、実をいえばメグと出会ってからずっと彼を見かけることはなかったのだ。
「えっと…ねえ、あなたたち二人の間で何があったか知らないけど―」

「そりゃお前には一つも関係ないからな」ヘラクレスが口をはさみ、太い腕を胸の前で組み合わせた。
その声は怒っているわけではなく、おまけにそれ程大きくもなかった。不機嫌そうな呟きが口からついて出たようだ。
すでに瞳は見るからに悲しそうで、意に反してアナは興味を掻き立てられた。体を捻ってロッカーを閉めて、ヘラクレスに向き直る。

「そう、それじゃあ…秘密ってわけ。それで、どうやって彼女を取り戻せると思う?」

「メグが…」彼はもう本当に落ち着きがなくなって、途方に暮れているようだった。
「メグが、その、お前に謝らないといけないって言ったんだ」

アナは困惑して眉をひそめた。
「え、どういうこと?どうしてメグがそこまで…い、意味が分からない。何で謝ったらあなたたちがまた彼氏と彼女に戻れるの?」

ヘラクレスがアナを見下ろす。ぎこちない態度ではあるけれど、どうにかして微かな笑みを浮かべていた。
「まあ、実のところ、ろくでなしになるのは止めろと言われたんだ」

「それが…なに。何ヶ月も嫌がらせしておいて、謝れば帳消しになるとでも思ってる?」
怒りがふつふつと沸いてくる。怒りと、信じられない気持ちが。
「あのさ、ヘラクレス。もし良い印象を持たれたいんだったら、元カノに言われたから謝ってるだけだなんて言わない方が良かったんじゃない!ていうか、そんな簡単にいくなんて本気で思ったわけ?」

バツが悪そうにするくらいの良識はヘラクレにもあったようで、彼は負けを認めてうつむき、肩を落とした。
「なあ、クリスチャン。俺は…」

アナが片手を上げて黙らせた。その目は怒りで険しかった。
「まず言っておくけど、そういう時はアナよ、『クリスチャン』じゃなくて。それから、本気で謝りたいなら、誰かに言われたからじゃなくて、本気で反省してからにして。
そうしたら、謝罪の言葉もいくらか意味のあるものになるかもね。彼女とよりを戻したいなら、何で別れることになったのか知らないけどそっちを始めに修復して!
ちょっと待って…」
アナは言葉を切り、ある考えが思い浮かんで動揺してみせた。
「まさか浮気したわけじゃないでしょうね?!」

その考えを聞いただけで、ヘラクレスは目を見開き恐怖の色をみせた。
「違う!」彼が声を張り上げる。「愛してるんだ!そんなことするもんか、お前は何も分かっちゃいない、お、俺には、俺には他の女子は眼中にすらないんだぞ。
今までメグだけが俺の事を気にかけてくれた、本当の俺を。
フットボールをやる前は、俺にはメグしかいなかった。そ、それに今だって、俺の頭にはあいつしかいない。
メグは俺にとって最高の女だ、それが分からないのか?
会いたくてたまらないんだ…あいつを取り戻すためなら何だってしてやるさ!」

涙で瞳を潤ませ、少年は今にも泣きだしそうに見えた。
体の横で両手を握り締め、リュックは肩から滑り落ちる寸前だ。

感情を露わにする彼の顔を無言で見つめていると、頭が痛くなってきた。ため息をつき、アナは一歩前に出てヘラクレスの腕に手を置いた。
「ねえ、昨日は一睡もしてないから今はあんまり本調子じゃないの。
本当なのね?あなたの望みなんか知ったことじゃないって気持ちもあるけど…どうなんだろう。男の人が泣くのなんて見慣れてないからよくわからない。
たぶんあなたは本当の事を言ってるし反省もしてる」
(ちゃんとした動機とは言えないけど。でも、何とかできるわ)
「ただし、それでパッと魔法みたいに二人がよりを戻せるって意味じゃないから。少なくとも、そんなに簡単にいくとは思えない…あたしは恋愛のスペシャリストじゃないの」

(ホントは違うくせに…)アナは顔をしかめ、心の中でそう呟いた。

エルサを思って脳みそが暴走しだす前に、頭を振って顔を上げヘラクレスと目を合わせる。まだ涙ぐんでいたけれど、彼は全神経をこちらに集中させていた。
間近で見る彼はそれほど怖く見えなかった。自信を失くしたかのようにうなだれ、いつもなら日に焼けた肌が疲れ果てて青白くなっていることにその時はじめて気がついた。
ここまで見た
アナは首を傾げた。
「でも…ひとつ教えてあげる。あたしの友だちのクリストフと話すの。
嫌がると思うけど、彼、フットボールの球を投げたくてウズウズしてるんだ。もしあなたが真剣に謝りたいと思ってるならだけど。
あたしよりずっと我慢強いのは確かよ、クリストフならどうやって助けられるか分かると思う。けど…今のあなたから謝罪の言葉は受け取れない。
本気になったら戻ってきて、いい?自分がした事の何が間違ってたのかちゃんと分かった時よ」

そう言い残してトボトボと1限目の授業へと向かうアナの後ろ姿を見つめ、ヘラクレスは廊下で立ち尽くしていた。
しばらくして大きなため息を漏らすと、彼はうなだれて反対の方向に歩き出した。

数時間後、気が遠くなるほど長い時間が過ぎて、終業のベルが鳴った。アナは腹の底から湧き上がる喜びを噛みしめていた。
何とかそれを外に出さないように堪えると、代わりに疲れた笑顔を見せ、イスに深くもたれかかってポキッと首を鳴らし満足そうにため息をつく。
「やっと終った…」

急いでロッカーに向かう。ここから抜け出して自分の家でソファーに寝そべりたくて仕方がなかった。
いつもなら兄が遊んでいるのを横目で見ていたゲームを、一つくらいやってみたっていいかもしれない。
イタリアが舞台のすごくイカしているのがあったはずだ…アサシンナントカとかいっただろうか?

(あれならそんなに難しそうじゃなかったな…干し草の中に隠れて、見張りが剣を振るってきたらカウンターアタックっていうあの超カッコいいやつをお見舞いすればいいだけだもんね。
それにみんなイタリア語でしゃべるの!あー…でもしゃべってるの聞いてお腹がすいてきたらどうしよう?先にピザを頼んでおこうかな…ピザってイタリアンだし)

物思いに耽っているとイラついた叫び声がそれをぶち壊した。
「アナッ!アナ、ちょっと待てよ!」

振り向くと人混みを押し退けて向かってくるクリストフが見えた。笑みを浮かべかけたけれど、彼が全く嬉しそうでないと気がつき、笑顔が萎んだ。
逃げ出す間も無く、腕組みをしてイラついた様子でこちらを睨みつけるクリストフが目の前に立ちはだかる。

笑顔を不安そうな表情に変え、アナは両目から前髪を振り払った。
「や、やあ、相棒。何かよう?」

「ヘボクレスがよりにもよってどうして俺に、10時にフットボールの競技場で会ってくれなんて言いに来たのか説明してくれ」

アナは少し驚いて眉を吊り上げた。
「へえ…本当に耳を貸すなんて思わなかった」

「耳を貸すだと?」

親友の声の調子にアナがたじろぐ。
「その…なんか今朝ヘラクレスがあたしに詰め寄って来たんだけど、要するにメグとよりを戻したいけどまだ怒ってて、あたしに馬鹿なことしてたのを謝れって言われたらしいのよね。
けど本当に反省してるんじゃなくて、ただメグに戻ってきて欲しいからだってわかったの。それが何だか、そのことを本当に悲しんでるみたいだったから…」アナは言葉を区切り、申し訳なさそうな視線を向けた。
「だから、あなたにアドバイスしてもらえばいいって言っちゃったかも。なんていうのかな、そういうことはあなたの方がずっと詳しいし、もう本当にあいつと話したくなかったんだもん」

アナの言葉にクリストフは片方の眉を吊り上げ、心配そうな眼差しを向けた。
「あいつと話したくなかったのか、そうか。今日は調子悪そうだな?」

アナはうめき声を上げ、こくりと首を縦に振って両目を閉じた。
「48時間起きてみてよ」

「そいつはエルサと関係してるのか?」
ここまで見た
アナは驚いて目を見開き、口をポカンと開けて呆然とクリストフを見つめた。「何で分かったの?!」

クリストフは忍笑いをするばかりで、腕組みを解いてアナの頭をくしゃくしゃに撫でた。「親友だからな。何でもお見通しさ」
アナが頬を膨らませると、クリストフはにこりと笑った。けれども、しばらくするとアナの両肩を掴んで屈み込んだ。
「そいつは…マズイことか?エルサは…あー、変なことしなかったよな?ほ、ほらその、お前が無傷でここにいるんだから、そこまでマズイってわけじゃないだろうがな、だろ?」

アナはしょげたように、もう一度目をつぶった。大きなため息をひとつ、体の底から吐き出した。「…わかんない」

迷うことなくクリストフが抱きしめてきて、アナは彼の胸に顔を擦り寄せた。腰に両腕を回し、親友の腕の中でその温もりと安心感に身を任せる。
アナの頭の上に顎をのせ、クリストフはもう一度ぎゅっと抱きしめた。「いいんだ。わかった」

疲れたようにアナが微笑む。「ありがとう、クリストフ」
彼を抱きしめ返し、身を引くまでしばらくそうしていた。
アナがこちらを見返すとその顔は穏やかで、それを見てクリストフが微笑んだ。けれども、アナがニヤリとイタズラっぽく笑うので彼の額に皺が寄る。
「じゃ…取引ね。あなたはヘボクレスと話をする、あたしはそもそもどうしてメグがあいつと別れたのか理由を探し出すの。あたしたちにかかれば、二人とも週末にはよりを戻してるわ!」

クリストフは呆れたように目を回してうめき声をあげた。
「アナ、俺たちは二年だ。恋のキューピッドじゃないんだぞ」

「だから?ヘラクレスはただの三年でしょ!それにメグだってあたしの親友なの!」

「ああ。で、お前は自分の親友がロクデナシとよりを戻してほしいって言ってるわけか?」
心底混乱したような眼差しを浮かべ、クリストフは奇妙な目でアナを見つめていた。
もし旧知の仲でなかったなら、その眼差しを「半信半疑」、それどころか非難しているとでも決めつけたところだ。

アナは肩をすくめた。
「あいつがロクデナシなのか、よくわかんない。今朝の彼、あたしの目の前で今にも泣き出しそうだったの。いつものあたしなんかより、もっと泣き虫だった」
クリストフは眉毛を吊り上げ、信じられないというようにアナをじっと見下ろした。アナはしかめっ面をして足を踏み鳴らした。
「本当だってば!あいつの話、聞けば良かったのに!
ずっとこんな調子よ『ああ、彼女を愛してる。メグは最高の女だ。分からないのか?』って」
アナが手の甲を額に押し付けて扇ぎ出し、ニヤそうになるのを何とか堪えて芝居がかった声を出す。
「『ああ、昼も夜もあの子のことばかり、このまま一生一緒にいられなかったらどうすりゃいい?もう二度とフットボールなんてできっこない!』」

クリストフは噴きだしそうになるのを堪えたけれど、アナがいきなりクスクスと笑い出すと、つい堪えきれずに二人で一緒に笑い合った。
クリストフがくしゃくしゃの髪に手を走らせ、ため息をつく。
「わかった、やりゃいいんだろ。協力する、けどかなり笑えるからってのとあいつが泣いてるところをちょっと見てみたいって思っただけだからな。じゃあ、これでいくぞ」
クリストフは背筋を伸ばして胸を張った。
「俺はあのマヌケとフットボールをする。お前は、」そう言ってアナの額をピンと弾く。「女友だちをコーヒーに連れ出せ」

アナが顔をしかめる。「なんで?」

「決まってんだろ、まずどうして別れることになったのかメグから聞き出してこい」

「…あ」
どうしてヘラクレスと別れたのかこれまで尋ねようともしてこなかったことに気がついてアナは眉をひそめた。
知っていることといえば、メグはまだヘラクレスのことが好きなのかも知れないという事だけだ。

(うわ、あたしって最低の友だちだ)

アナが携帯を取り出して、クリストフに敬礼のまねをした。「了解であります、キャプテン!」
そう言ってクリストフに返事をする暇も与えず走り去り、連絡先からメグの名前を引っ張り出した。

『通話』ボタンを押して耳に当て、メグが電話に出るのを今か今かと待ちながら駐車場へと向かう。

メグが電話に出るとアナは顔をほころばせた。
「ジンジャースナップ?どうしたの?頼むから本当に義足が必要になったなんて言わないでよ」

「ううん、今日は止めとく。でもホットチョコレートは必要よ。今、忙しい?」

「あんたのためなら忙しくしてる暇もないわ、おチビさん」
ここまで見た
アナはクスクス笑い、学校のドアを押して陽の光の下に出た。
今は5月、春の終わり。夏はすぐそこまで来ている。
それに外はすっかりいい天気だ。輝く太陽と青い空。
草木もようやくまた緑に色づいている。正真正銘の緑色、見なれた冬草のような黄色でも、うす汚れて茶色味がかった緑色でもない。

「良かった、もう帰っちゃった?最後の授業よくサボってるのは知ってるんだから。なんなら迎えに行くけど」

「そういえば今まで一度もあんたの車に乗ったことなかったわね。お願いだから運転の仕方は知ってるって言ってよ、それとポップスを聞かせるつもりなら本当に勘弁して」

「もう!あたしは優良ドライバーだから!それにポップスのどこが悪いのよ!」

受話器の向こうでメグの笑い声が聞こえた。
「もういいじゃない、ジンジャースナップ。住所教えるわ。外に着たら電話して」

―――――

ようやくクリストフがフットボールの競技場に到着すると、客席から体を起こしてうなだれ、下を向いているヘラクレスを見つけた。
両手を体の前で組み合わせ、 アナが言っていたように見ていられないほど落ち着かない様子だ。

クリストフは渋い顔で頭を掻きつつ彼に近づいた。ヘラクレスのそばのフットボールを見つめ、咳払いをする。
「おい、来たぞ」
ヘラクレスはチラリと目線を上げ、驚いた顔をした。
その瞳に浮かんだ表情に、本当に自分が姿を表すとは思っていなかったのだろうかとクリストフはふと思った。

ヘラクレスが黙っていると、クリストフがボールの方を顎でしゃくった。「投げろ」

ヘラクレスはサッと下を見て頷くと、ボールを掴んで立ち上がった。アンダースローで投げたボールをクリストフが難なく受け止める。
ヘラクレスがフィールドに降りてくる間、クリストフは手の中でボールを転がしていた。
彼の唇に笑みが浮かぶ。

アナの言う通りだ、彼は投げたくてウズウズしていた。
ハンスはアナに投げ方を教えていたけれど、決してそんなに遠くまで投げられなかったし、キャッチするのもそれほど上手いとは言えなかった。
ボールはいつもアナの手から零れ落ちるみたいで、遊びだといってもハンスと投げ合う方がもっとやりがいがあって、ずっと楽しかった。

「お前が来るとは驚いたな」

顔を上げるとヘラクレスが険しい目でじっとこちらを見ていた。
けれどもクリストフの視線は揺らがなかった。恐れずに、それどころか怒っていた。
相手はアナの敵の中心者だということをクリストフは知っていた。こいつとあと数人のフットボール選手たちだ。
たとえアナがそうだと言わなくたって、クリストフには分かっていた。
それが親友としての自分の役目だ。

「お前に来いって言われたけど」ぶっきらぼうにクリストフが答える。
「俺が来たのはアナに頼まれたからだ」

ヘラクレスが答える暇もなく、クリストフが大きく振りかぶって投げ、相手の右手にボールを叩き込んだ。
ヘラクレスが驚いて青い目を大きく見開く。受け止めようとするのかと思ったが、飛び退いてボールが横を通り過ぎた。それを見てクリストフは満足そうににやりと笑った。

「くそっ、トナカイ野郎が剛腕だなんて聞いてないぞ」
ボールを取りに行きながらヘラクレスが振り返ってギロリと睨みつける。

クリストフはしかめ面をして大声で返事をした。
「トナカイ野郎だから、剛腕なんだよ。俺はこんな銃を本当に役立つことに使ってる。それにスパッツを穿いた野郎どもと一緒に汗臭いジムに8時間も籠る必要もないしな」

ボールを取ろうと身を乗り出していたヘラクラスが、クリストフの言葉にピタリと動きを止めた。
黙っていたけれど、しばらくして肩で大きなため息をついた。
ボールを取って向き直ると、それを上の空で空中に放り投げた。
「…何でお前ら二人はそうなんだ?」
ここまで見た
「何がだ?」クリストフが訝しげに尋ねた。

「お前とメグはよく似てるよ。この学校の奴らが考えてる事なんて屁とも思ってない。
それをからかってくる連中がいれば、侮辱の言葉を褒め言葉に変えるんだ」
穏やかな笑みを浮かべ、ヘラクラスは遠い目をした。
「メグは馬鹿にされる度に自分にポイントを入れてこのゲームをしていた。
いじめたヤツに発言を取り消させることができたらポイントを減らす。マイナスで終われば、その日はメグの勝ちなんだとさ」

忍び笑いを零しながら首を振り、ヘラクレスが腕を振り上げてボールを投げた。
クリストフがそれを引き寄せ、難なく腕で抱え込んで受け止める。

「一度こんな事があった。チアリーダーの一人がメグのバイクを馬鹿にしようとしたら、あいつはな、一字一句違わずにこう言ったんだ。『フットボールチームが半分かかってきたって、バイク一台の方がマシよ』ってな。
傑作だろ、あのチアリーダのやつ、頭が爆発するに違いないと思ったもんだ」

クリストフがおかしそうにフンと鼻を鳴らしてボールを投げ返した。
二人はそのまま静かに立ち尽くし、クリストフはヘラクレスの笑顔が次第に曇って再び悲しげな表情に変わるのをじっと見つめていた。
もう一度ヘラクレスがボールを受け止めると、今度は投げ返そうとしなかった。

「…どうして俺は悪党になっちまったんだ?」

クリストフが腕を組む。「どうしてだと思う?」

ヘラクレスは顔をしかめ、首を左右に振った。
「分からない。去年は何もかも順調だったんだ。メグと俺は幸せだった、俺だって常に不機嫌だったわけじゃないし、皆、俺を嫌っちゃいなかった。
俺をからかいはしたかもしれないが…そんな事はどうでもいい。メグが…メグが言っていたのは」

「メグの常識に頼るな」険しい声でクリストフがきっぱりと遮った。
「今の状況が気に入らないなら、何が不味かったのか見つけるのはお前の仕事だ。それを解決するのもな。メグの仕事でも、俺の仕事でもない。ほら、よこせ」

ヘラクレスは競技場の向こうからクリストフを睨みつけていたけれど、それでも言われた通り投げ返した。
クリストフはなに食わぬ顔で再びボールを手にするとすぐに話を続けた。
「アナも俺もロクデナシじゃなかった頃のお前は知らなかった。ハンスが居なくなってはじめて、お前は俺たちの前に現れた。しかもありがたくない新顔だ」

「なあ、俺が白馬に乗った王子様って訳にいかなかったのは認めるが−」

またヘラクレスの言葉が腹に目がけて飛んできたボールによって遮られた。
それは想定外のことで、おまけに圧倒されるほどの力が込められていた。腹部に痛みが広がったけれど彼がボールを手放すことはなかった。

「お前は自分より一回りも小さい16歳の女の子をよってたかって攻撃して、笑いものにして、脅して、それまでにも十分苦労していたアイツの人生をわざわざつらいものに変えたんだ。
この数カ月アイツがどれだけ苦しかったか想像できるか?」

「苦しいだと?!」ヘラクレスは目は怒らせ、大声を上げた。
「この数カ月で俺はガールフレンドと、全国大会と、チームメイト二人を失った。アイツらがあと一カ月は学校に戻って来られないのを知ってるよな?
しかも俺たちに残されたのはあと2ヶ月だぞ!エリックは4年だった!大学のスカウトの目に留まるためにあの大会にかけてたんだ!」

「いいや、苦しんだのはアイツだ」クリストフが庇うように呻いた。
「残されたたった一人の家族を失ったせいでな。アナはまだ小さかった頃に両親を亡くした。アイツとハンスは二人っきりで育ったんだ。アイツらにはお互いが全てなんだ。
ハンスが施設に入ったときアナは怯えていた。兄貴を失って、ひとりぼっちでアパートに帰るのを怖がって俺の家で一週間過ごさなきゃならなかった」

ヘラクレスは目を丸くした。
そんな話は初耳だ。
けれども、クリストフの話はまだ終わらない。脅すような視線を向けながら年上の少年に近づいていく。
「それが嫌でアイツは学校だって2、3日行けなかった。戻ってくるよう説得するのにどれだけ苦労したか分かるか?
それでようやくアナが戻って来たその日に、お前とその仲間全員でアイツを脅したんだ。ハンスだけじゃなく、アイツまで叩きのめすと言ってな。覚えてるか、ヘボクレス?」

ヘラクレスの頬がカッと赤くなり、彼は目を逸らした。
その目の中に否定的な感情を読み取ると、クリストフは歯を剥きだして唸り、彼を突き飛ばした。
ヘラクレスはぐらりとよろめいたけれど、その場に踏みとどまった。
ここまで見た
「それだけじゃない。
毎日毎日繰り返される脅すような視線や、ロッカーに入れられた酷いメッセージ、さもなきゃ俺の相棒のスヴェンにまとわりつくハエみたいに、お前らマヌケどもの後をついて回る馬鹿みたいなスカートを履いたアバズレたちからのくだらない嫌がらせだ」
クリストフに再び突き飛ばされ、今度こそヘラクレスは倒れた。自分自身の足につまづいて強かに地面に打ちつける。
「アイツが何したって言うんだ?ハンスがやったことで何かアイツに落ち度でも?
ちゃんと脳みそを使ってりゃ覚えてるだろ?凍えそうな日だろうが、家に帰ればやらなきゃならない宿題が山ほど待っている日だろうが、アイツはいつだってお前らの試合を応援してただろ。
ずっとお前の資金集めのパーティーを手伝って、お前らのために給水係になるとさえ言った。そうしなかったのは、スタンド席で応援していて欲しいとハンスが望んだからだ」

拳を握りしめ、クリストフは目の前で倒れている少年を睨みつけた。
ヘラクレスはズルズルと足を引きずりながら、思い出して恥ずかしさに打ちのめされた。本当に事件の前までアナのことを知らなかった。気にかけたことなど全くない。
確かにあの頃はメグとすれ違い始めていたから、そのせいだったのかも知れない。

本当なのか?
ずっと彼女の中ではチームがそんなにも大きな意味を持つものだったのか?
本当にわざわざ駆けつけてくれていたのか?皆のために?自分の兄のために?

…そしてそれ以来、本当に彼が言ったように感じていたのか?

クリストフは身を屈めてヘラクレスの襟首に掴みかかった。
「くそったれなんだよ、お前は。観念しろ。立ち直る方法を見つければ、ガールフレンドを取り戻せるかもな。ダメだったとしても、今までの罪滅ぼしくらいにはなるだろ」
力尽くでヘラクレスの上半身を地面から起こし、クリストフは顔を近づけた。
まただ。年下のこの少年の力強さには驚かさせられる。

「アナに手を貸して欲しいと頼まれたから、ヒントをやる。そのちんけな脳みそを使ってみろ。アナがどんな気持ちだったか想像するんだ。
毎日毎日、お前にいじめられて。学校に行くのも、家に帰るのも怖くてたまらない気持ちがどんなものか考えてみろ。メグを失ったときどんな気分だったか覚えてるか?ハンスがいなくなった時アナがどんな思いだったか分かるか?
たまには考えて、感情を持て。普通の人間らしくな」

にらみ合いが続き、しばらくしてクリストフが手を離した。
ヘラクレスが不機嫌そうに息を切らして芝生に倒れ込み、その手からボールが転がり落ちる。足音が聞こえ、クリストフが去っていくのが分かる。

(怖くてたまらないだと?)

ヘラクレスは空を見上げ、両手を広げた。通り過ぎる雲を見つめながら、押しつけられた新たな情報と全貌にめまいを覚える。

クリスチャン兄妹が孤児だとは考えもしなかった。ハンスは何も言わなかったが、言われてみれば彼はプライベートな話を一切しなかった。
異性に興味を示したこともなかったし、パーティーに行った時でさえビール・ポンで遊ぶか、誰かのために酒を作ってやるくらいしかしていない。いくら魅力的だといっても、彼はそれほど社交的ではなかった。

おまけにからかいやいじめを除けば、アナについてヘラクレスは知らないも同然だった。
癇癪もちということだけははっきりしている。けれども知っているのはせいぜいそのくらいだ。

(学校に行くのも、独りになるのも怖い、か…)

胸の重苦しさとは裏腹に、ヘラクレスは声を上げて笑い出した。
忍び笑いを零しているうちに目尻に浮かんだ涙を片腕で覆い隠し、眉間に皺を寄せ、両の拳を握りしめて自虐的な感情を露わにする。

(ああ。それならよく知ってるさ)

―――――
ここまで見た
ウェイトレスが注文したドリンクを運んでくると、アナは小さく歓声を漏らしてホットチョコレートを自分の方に引き寄せた。アイスグリーンティーを口に運びながらメグがテーブルの向かいでクスクスと笑っている。
「今日は外が暑いって知ってる?ジンジャースナップ?」

「だから?みんなだって冬にアイスクリーム食べるでしょ?」

メグは片方の眉を上げ、最後の一口を飲み終えカップを下ろした。
「確かにね。で、どうしたの?コーヒーでも、ってデートに誘ってあんたを引きずり出すのはあたしの役目だったはずよ。なんでこんな急にはりきってるの?」

いたずらっぽくアナが笑う。「何よ?下心でもないと普通の友だちみたいにお茶に誘えないわけ?」

メグが笑い返す。「もちろんいいわよ。だけどあんたができないことが一つあるわ。嘘つくこと。というわけで、ジンジャースナップ」
メグは顔を寄せて、テーブルの上で腕を組んだ。
「何かわけがあるんじゃないの?」

気まずそうにアナは唇を噛んだ。
もちろんメグにはお見通しだろう。こんなに急ぐべきではなかった…少なくともメグが家に帰るまで待てたはずだ。「えーと…」


「嘘つこうとしても無駄。あんたが上手じゃないのは二人ともよく分かってるでしょう」

アナはため息をつくと、ホットチョコレートをすすってすぐにホイップクリームをベロリと舐めた。
「つまんないの。そうよ、下心があるの。実は、その…ちょっと聞きたいことがあって」

メグがピタリと固まった。
「そ、そう…それで、な、なにを」言葉を切って、メグは咳払いをした。両手の指を組み合わせ、視線を逸らして頬を染める。
「なにを聞きたいの?」

メグの動揺には気づかずに、アナはもう一度ホイップクリームをなめてからはっきりと口にした。
「ヘラクレスのことが聞きたかったの」

メグはサッと目を細めた。「ごめんなさい、今なんて?」
混乱して出たその言葉は、早口で微かに上擦っていた。
一体なぜ、よりにもよってワンダーボーイのことをアナは聞いてきたのだろう?これじゃ期待していた事とまるで正反対だ。
けれども、ある考えがメグの頭をよぎった。
「またアイツに何かされたわけじゃないわよね?だって、もしそんな事でもしたら、あたしが―」

「違う違う、それは心配しないで。アイツには何もされてない。ただちょっと…か、彼のこと教えてくれないかなって思って。例えば、その…どうして別れちゃったのかな、とか」
信じられないといった様子でメグがじっと見つめていると、アナが肩をすくめて恥ずかしそうにはにかんだ。
「あたしね、今日気がついたんだ。今まであなたのこと全然聞いたことなかったよね。何か始めるのに今日はぴったりの日だと思ってさ」

メグは静かに、その話を信じていいものかどうか頭の中で考えた。
つい数分前に自分で言ったではないか、ジンジャースナップは嘘がつけない人間だと。それにアナの言葉は全て本音のように思えた。ということは、本当にただ気になっただけなんだろう。

(そう思うのも無理ないわね、この子の兄さんが、その…しでかした時からずっと苦労させられてる連中の一人とあたしは付き合ってた訳なんだから。
それにしても、ハークには頭を冷やせって言ってやったし…この頃、彼には迷惑してないってアナが言うんだとしたら、それってもしや…

…違うわね。今はそんな時じゃない)

メグはもう一口お茶をすすって椅子の背にもたれかかった。目をつぶり大きく息を吸い込んで、イラついたため息を吐き出す。

「ワンダーボーイとあたしは一年くらい付き合ったわ。出会ったときはね、ダサかったのよアイツ。フットボールなんてやってなかったし、脳筋でもないし、それにとっても優しかった。
それどころか本の虫で、ギリシャ神話や、ペルセウスやテセウスみたいな英雄の長編物語が大好きだったの。
実はそれがきっかけで彼と出会ったのよ。授業をサボってた時に本に鼻まで突っ込んでる彼を見つけたの」

メグが話を止めて、思い出しながら微笑みを浮かべた。
「彼ったらあたしがそばにいると、いつも緊張してた。どもりっぱなしで、うっかり手が触れ合ったりなんかしたら毎回謝ってきたわ。あたし…誠実な彼が何だか気になって。それにカッコよかったの、あの頃でさえどんなガタイのいい男よりもね。
しかも紳士だった。いつもあたしのためにドアを開けてくれて、体力がほとんどなくたってあたしの本を持つって言ってくれた。いじらしいでしょう。
あたしが3年、彼が2年の時はだいたいこんな感じ。楽しくて、安らいで、飾る必要なんてなかった」
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彼女の笑顔が、蘇る不愉快な記憶にかき消される。

「でも、夏の間に何かあったのよ。家庭の事情みたい。
急にデートをすっぽかしたりドタキャンするようになって、ほとんど顔を合わせなくなった。どうしてなのか絶対に教えてくれなかったわ。それで学校が始まったら、ほとんど別人になってたの。
ねえ、誤解しないで。筋肉がダメとは言わない、でもアレは変よ。あんな彼を見たのは初めてだった。夏の間にちょっとした変化には気付いたの。何だか肩幅が少しがっしりして、腕があんまり…ほっそりしてなかった。
けど、学校が始まってから彼を見かけた時は、プロテインの看板男よ、しかも何でもないように振る舞ってくるから面くらったわ」

「じゃあ…待って。ヘラクレスは夏休みを彼女といる代わりにジムで過ごすことに決めたってわけ?」

遠くを見るように、メグは頷いた。
「そう。それからあたしにフットボールチームの入団テストを受けるって言ったの」

メグが沈黙すると、アナは友人の視線を捉えようと屈みこんだ。
「それで…それが…嫌だった?」

メグは驚いて目を瞬いた。
「違う、そうじゃないの。そんなに嫌じゃなかったわ。あたしはただ…フットボールに興味があったなんて今まで一度も聞いたことなかったから。一度もよ。
それに正直言うと、あたしはチームの奴らなんて誰も全然好きじゃなかった。あんたの兄さんは別よ、面倒事には関わらなかったし、紳士だったもの。
でも…ハークはあたしの言葉に耳を貸そうとしなかった。ひたすら『やるしかないんだ』って言うばっかり。それにあたしの質問に何も答えてくれないの。そんなの彼らしくない」

アナは頷き、指でホットチョコレートのマグカップをコツコツ叩いた。
「それじゃあ…どの辺でアイツは嫌な奴に変わっちゃったの?」

メグが皮肉っぽくクスクスと笑う。
「実を言うと、ちょうどその頃よ。彼はすんなりチームに入団して、それからはまた元通り、順調だった。しばらくの間はね。でも、そのあと急に今までからかわれてた連中から、まるで音信不通だった兄弟みたいにもてはやされて…うぬぼれやの出来上がり。
あの人は自分が誰だか忘れてしまった。目の敵にしている学生の一人に昔の自分がいたことなんて忘れてる。あの夏まではからかわれるとあたしに泣きついてきたくせに、今じゃ自分がそういう人間になったのよ」

メグはため息をつき、拳をあまりにもきつく握り締めるので、指の関節が白くなった。
「でも一番厄介なのはそのことじゃないの。それが原因で別れた訳じゃない。
あたしが彼を振った理由は…彼が心を閉ざしたからなの。
何があったのか確かめようとしたわ、話し合って力になろうとした。だってあたしは彼をよく知ってるし、あたしに何か隠し事をしてるって分かってたから。けど、彼はずっと何も問題ないフリを続けて、馬鹿な事を言うのはよせって言ったのよ」

アナの顔が曇る。
妙な話だが、アナには手に取るように分かった。それどころか、二人のことも。
そして興味が湧いた。
アナは手を伸ばしてメグの手に重ね、相手が視線を上げると優しく微笑んだ。
慰めるように、メグの温かな肌を親指でそっと撫でる。

「多分、彼は怖いだけなのよ。その気持ち、あたし分かるな」

メグの目が険しくなる。
「まさかアイツのこと庇う気じゃないでしょうね。あんたを酷い目に合わせた奴なのよ!」

アナは肩をすくめた。
「知ってる」

(でも救いようがないってわけじゃない)


end
ここまで見た
  • 364
  •  
  • 2015/12/22(火) 17:01:40.04
キター
ASiSのアナは本当いい子だね
クリストフもイケメンだ
ここまで見た
  • 365
  •  
  • 2015/12/27(日) 21:52:49.50
Asisのアナ天使だわ…簡単に許しはせずでも道は用意する。クリストフは良いヤツすぎ。
あれがあった後のエルサは次回に持ち越し?早く読みたいな〜というか病院に戻ってからいったいどうしてるのか…。
ここまで見た

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